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蘭に縛られる(物理)



目が覚めると体が縄で縛り付けられていた。体が動かんと思えば椅子に固定されている。やけに冷静だと思うかもしれないが、冷静なわけがあるか。めちゃくちゃパニックである。昨日は確か同僚と飲みに行ったはずだ。久しぶりに気心の合う人との飲み会にとってもはしゃいでいた。最近は彼氏がうるさくて、碌に飲み会に行けてなかったからな。彼氏から仕事が忙しそうだからしばらく会えないって言われて秒で飲み会の開催の連絡をした。……彼氏、彼氏……。そうだ、確か飲み会が終わった後蘭から連絡が来てるのを見つけて……それで急いで家戻って……。

「蘭か!!!」
「ん?そうだよ、俺だよ。」
「あ、蘭……。」
「おはよーなまえ。」

昨日最後に会った相手の名前を呼べば、私の目の前にその人物が現れた。見知った顔にホッと一息吐く。わけがない。蘭は私が椅子に縛り付けられているのにこの状況をなんとかしようとする気配がなかったし、何故か笑っていらっしゃるので、完全にこの状況を作り出した人物で間違いない。前からなんとなくヤベー奴だな、と思っていたけど、今日で確信に変わった。何故こんなことをされているかも心当たりがある。蘭は怒っているのだ。何に怒っているかは知らないが、おそらく昨日の飲み会だろう。昨日家に帰ってからの記憶が全くないが、きっと何かの拍子で飲み会に行ったこと(しかも主催者)であることがバレたに違いない。蘭は意外と嫉妬深く、私が人と出かけるのをめちゃくちゃ嫌がってめんど…、いや、大変なのだ。

「とりあえずさ、何でこんなことになってるか分かる?」
「…………いや」
「は?」
「私が昨日飲み会に行った件でしょうか。」
「そうそう。しかも主催者。ほんと面白いこと考えんな、なまえ。」
「そうかな、へへへ……」
「何笑ってんの?」
「ごめんなさい。」

蘭が懐から棒状のモノを出してきて振り上げたので咄嗟に謝る。あれ警棒?見間違いじゃない?何であんなモノ持ってんの?てゆーか蘭今日仕事じゃないの?こんなど平日に何してんだ。

「てかさーほんと前から限界だったんだよね。なまえこの前俺とした約束覚えてる?」
「約束?」
「は?覚えてねーの?ハァ……またイチから躾直しかぁ。」
「?!?!……へ?!あ、あのーえーと、」

まずい。蘭が躾というだけで背筋が伸びる。正直蘭とのアレソレは苦手なのだ。何で付き合ってるのかって?私が聞きたいよ。
蘭が言う「約束」を思い出す。特に約束した記憶はないけどなぁ。この前私が食べちゃった蘭のアイスを今度買いに行くって誓わされた話か?そこまで怒るか?だってこれ昨日の飲み会とまた違う話だもんなぁ。

「えー分かんねーかぁ。この前なまえが別れ話とかいう冗談を言ってきたことがあったじゃん?」
「あれは冗談では……」
「あったじゃん?」
「そうですね。」
「その時にお互いに我慢してるとこ言い合ったじゃん。その時の三つの約束。」
「ああ……確か」
「男と目は?」
「合わせない」
「男と会話は?」
「しない」
「男と同じ空間には?」
「いない」
「言えんじゃん。」

いい子いい子ーと蘭が頭を撫でてくるが嬉しくもなんともない。あとさっきのお互い我慢しているところを言い合うという話だけ聞くとフェアに聞こえるかもしれないが、私は蘭に別れ話をした=蘭が怖くて早いとこ別れたいという気持ちを押し込めることが最大の我慢なので全く釣り合ってない。あと蘭の言う三つの約束は、別れ話にキレた蘭に壁に追い詰められながら言われたものなので「誓い」に近かった。でも蘭がなんとなく機嫌が良くなったので、そろそろ縄を解いてくれるかもしれない。

「あの、蘭さん。これ、解いてくれませんかね。」
「え、無理。」
「何で?!」
「まだ話終わってねーだろ?俺はだからさ、我慢の限界なわけ。約束破るわむしろ自分で飲み会セッティングするわでちょっとお転婆すぎんじゃねーの?」
「確かに、飲み会はちょっと、いや、かなりはしゃぎすぎたかなって反省してますので、そ、そのう……許してください!」
「だーめ。あ、なまえこれちょっと見てみ。」

そう言うと蘭は私の前に自分の携帯を見せた。人物の写真である。しかしこれはどこか見覚えのある人物だった。

「え?!山田くん?!」
「そーお前の同僚の山田くん」
「何で蘭が知ってるの?!知り合い?!」
「は?お前まじでこの状況でソレ言ってんの?バカすぎて萎えるからやめろ。」
「す、すみません……」
「コイツは昨日お前の隣の席座ってほろ酔いのお前がボディータッチしてただろ、それからコイツ。コイツは名前のグラス勝手に飲んで間接キスしてたヤツ、あと普段からムカついてる奴も何人か保存してんだよなー。あ、コイツはなまえの上司な。分かるだろ?コイツは普段からなまえにばっか構ってくるからマジでうぜーんだよな。あとコイツ。この前すれ違った時に目が合った奴。後はー……多すぎて面倒だな。まぁコイツら全員うぜーから、殺しちゃっても良い?」
「ちょちょちょちょちょ待て待て待て。落ち着け落ち着け。君にはまだ未来がある。私なんかのために犯罪に手を染めるのはやめてくれ。」
「いや今更だろ。仕事で何人やったか。」
「ちょ待って?!君そんなアウトローな感じ?!」

待ってよちょっとちょっと。彼氏が勝手に人の身辺事情にやたら詳しいのに加えて犯罪者だと言う事実を告げられ、急に心臓がバクバクしてきた。今椅子に縛られているし、この状況、私……殺される……。

「う、う……ごめんなさい、う、うう……もう飲み会行かないから……。命だけは……。」
「え?泣いてんの?心配すんなー?なまえは殺さねぇから。」
「え?」
「言ってんじゃん。コイツら全員殺していいかって。なまえはやんない。」
「だ、ダメです、ダメです!!!」
「えー飲み会の幹事に言われても響かないなー。今から全員ここに集めてくるからお前の目の前でやってやるよ。」
「ら、蘭!!!」
「ん?」
「な、何でもしますから、勘弁してください!!!」

体は動かせないから頭を下げる。あまりの緊張で体全身が震えているようだった。下を向いた拍子にボトボト、と涙がこぼれ落ちた。情けない。こんなことなら飲み会なんて開くんじゃなかった。だって蘭がしばらくいないなんて初めてだったから嬉しくて、つい……。山田くんは冴えないけど良い奴なんだよ、可愛い彼女だっているんだよ……。
悶々と考え込んでいると、蘭が私まで目線を合わせるためしゃがんだ。

「何でも?」

蘭の口が弧を描いている。ゾワ、と鳥肌が立った。これはあんまり良くないことを考えている時の顔だ。


「じゃあ今度こそ俺との約束守ってもらおっかなー。」
「……。」
「でも普通に暮らしてたら無理だよなー。じゃあ会社辞めよっか。」
「え、」
「まさか嫌って言わないよなー?何でも言うこと聞くんだもんな?そうでないとコイツら殺すし。」「そ、それは……。」
「じゃあできるよな?」
「…………。」
「ハイ返事聞こえなーい。じゃあ殺しまーす。」
「ハイハイハイ!!!会社やめます!!!」
「じゃあ、男と目は?」
「……合わせない。」
「男と会話は?」
「しない」
「男と同じ空間には?」
「いない」
「ハイ、じゃあこれ破ったら即コイツら殺るから。……じゃあ早速俺の家帰ろ、な?なまえ来ると思って掃除してもらったからー」

蘭が急にキャラが変わったようにウキウキしながら私の体の縄を解いた。あまりの変貌ぶりにドン引きしていると蘭に手を引かれて、そのまま謎の建物の外に留めてあった車に乗せられた。
こんな廃屋みたいなところ良く知ってるな……。

「そういえばさーさっきのなまえ、撮ってたんだよ。見る?」
「え。」
「言質って大事だろ?さっきの約束忘れないように記録しといたから。ぜってぇ破んじゃねぇぞ。」

そう言って光がない真っ黒なお目目を見せながら、蘭は満足そうに私に口付けをしてきたので、何も考えないことにしてそれを受け入れるのだった。