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天罰を数えるのにも飽きた


*天使と悪魔パロ
*痛い表現あり




「いや、助かった助かった!この辺に来たのは久しぶりでのう。嬢ちゃんがおらんかったらあのままのたれ死んでおったよ。」

綺麗な顔だというのに古臭い喋り方をする天使がニコニコしながらそう言った。少し長めの髪の毛は、艶々していて、この辺の天使では見かけない漆黒の色をしている。
こんな天使いたかな。こんな美しい天使だったら忘れなそうなものだけど。

その天使の名は、零さんというらしい。どうやら物凄く遠くから仕事で来たみたいだ。私たちが住んでいる地域に来るのは久しぶりだったらしく、オロオロしているところに私が声をかけた。
零さんを駅の方まで送り届けると、くるりと方向転換して私の顔をじぃっと見つめた。あまりに綺麗な顔に見つめられ、戸惑っていると、零さんは私の手のひらに彼の手のひらを重ねた。ごろ、手に何か感触がある。

「今日のお礼じゃ。」

そのまま零さんは私の頭に手を置いて、どこかへ消え去ってしまった。あんな一瞬でどこかへ行けるなら、私の案内なんていらなかったのではないだろうか。零さんの顔を思い出して、ポーっとする。あまりに綺麗な顔が近付くと、思考が停止するらしい。そのまま視線を手のひらに移すと、そこには零さんと同じ目の色の、赤い宝石がついたネックレスがあった。


-------



零さんと会って以来、私は散々だった。
まず私の周りから人がいなくなった。最後まで側にいてくれた友人は、「ごめんなさい、あなた、なんだか臭うの。」と青ざめた顔をしながら私に謝罪をして私に近寄らなくなった。
みんな私を避け、しまいには物を投げられるようになった。「悪魔だ、あいつは悪魔なんだ!」と私に叫んだ。何のことか分からなかった。だって私は生まれてからずっと天界に住んでいる天使で、悪魔になんか会ったことも話したこともない。
だから最近は家で一人、過ごしていた。外に出たって、知らない天使に怒られ、攻撃されるから。

しかし、一人で過ごすのも終わりを迎えた。なんだか豪勢な格好をした天使が家を訪ねてきたかと思えば、私を連れて行ったのだ。どこに連れて行くのですか、と問うても、誰も答えてくれなかった。ここ最近行われていた仕打ちを思い出し、体が震える。
もしかしたら私はもう殺されるのかもしれない。

連れられたところは大きな屋敷だった。ここはどこだろう。何故私は連れてこられたのだろうか。目の前の天使が大きな扉を開けると、広い部屋で誰かが大きな椅子に座っていた。周りの天使がその天使の前まで連れて行き、私を跪かせた。ちら、と目の前の天使を見上げると、彼は私を見つめてふんわりと微笑んだ。綺麗なブロンドの髪に、吸い込まれそうな青い瞳、透き通る白い陶器のような肌に、この天使こそ天使と名乗るのに相応しいな、とぼんやり思った。彼の羽は大きかった。おそらく位の高い天使である。

「もういいよ。ありがとう。僕は今から彼女と二人で話すから、どこかへ行ってくれる?」
「し、しかし英智様…彼女は悪魔と接触した疑いで、」
「いいから早くどこかへ行ってくれないかな。」

ピシャリ、彼がそういうと、皆は一斉にゴクリと唾を飲んでいた。申し訳ありません、とその天使は言い、周りにいた天使たちは一斉に部屋から出て行った。彼らが出て行った方向をボウっと見つめていると、後ろからねえ、と声をかけられたので、ゆっくりと後ろを振り返った。彼は、先ほどと変わらない笑みでこちらを見ていた。英智様、と天使たちに呼ばれていたその天使は、座っていたやたらと豪華な椅子から立ち上がり、こちらまで向かってきた。思わず首を垂らすと、かれはクスクスと笑った。

「そんなにかしこまらなくて良いよ。ほら、顔を上げて。」
「も、申し訳ありません…。」
「…ふうん。確かに、報告通り悪魔のにおいがするな…。」

わざわざ私と目線を合わすためなのか、しゃがみこんでじっと私の顔を見る。子供のような綺麗な瞳は、何も混じりけがなく純粋そのものだ。思わず目が逸らせなくなる。ゴクリ、先ほどの天使たちと同じように唾を飲み込むと、目の前の天使はフッと笑った。

「何故ここに連れてこられたか分からないって顔をしてるね。」
「あ、そ、そうです。私はどうしてここに連れてこられたのでしょうか、何か、何かしてしまったのでしょうか…。」
「心当たりない?」
「も、申し訳ありません、本当に、その、心当たりがなくて…。」
「ふうん。そんなに悪魔のにおいプンプンさせといて?」
「あ、悪魔…?」
「気付いてないんだね。まぁ、君が連れてこられた理由はまさにそれだよ。悪魔と接触した疑いで僕の所に話が来た。スパイかもしれないって。知ってるよね?天界では悪魔と接触したら重罪だ。」

彼が行ったことがいまいち理解できない。悪魔と接触した?全く思い当たる節がない。私がスパイだなんて、そんなわけがないだろう。私は素晴らしい天使になりたくて、成績はいまいちだけど毎日頑張っているし、悪魔と接触するかもしれない治安の悪い場所だって避けて生きている。相変わらず目の前の天使は表情を変えることなく微笑んでいる。なんだかそれが不気味に感じる。

「呆然としているけれど、大丈夫?」
「、あ、の。私本当に、何もしてなくて、」
「いやー説得力ないよね。君の動向を観察していたけれど、君の周りから天使がどんどんいなくなっていただろう?通常悪魔と接触しても周りが気付くことなんて少ない。でも皆気付いたってことは、位の低い天使でも気付くくらいの魔力を持った悪魔と接触したってことだ。」
「そ、そんな、そんなのは、」
「ー零。そう名乗ってきた天使に出会ったかい?」

彼は私の手をぎゅっと握ってきた顔をずい、と近付けられたので、思わず仰け反る。零、という名に聞き覚えがあった。零さんだ。迷ったと言って私が道案内をして、最後にネックレスをくれた。私が黙り込んだので、英智さんはどうしたの、と再び顔を近付ける。驚いて、早口でそのことを伝えた。英智さんは私の話を聞き終え、目を細めた。

「へぇ…ネックレスをね…」
「あの、零さんが何か…?」
「なまえちゃんと言ったね。なまえちゃん、僕と取引しよっか。」
「と、取引…?」
「うん。零ってやつはね、冥界のボスだよ。」
「え…?」
「何で君に接触したかは分からない。君の様子を見るに、本当にスパイでもなさそうだしね。でもね、向こうのボスと接触した、なんて知られたら周りはどうなると思う?君がスパイじゃないって言って信じてくれるかな?」
「…それは…。」
「周りはスパイじゃないなんて嘘だ、これは重罪だ、罰しろって言うよ。天使は裏切り者には厳しいからね。君も知っていると思うけれど、悪魔へのスパイ行為は間違いなく堕天だよ。冥界まで行ってもらう。」
「そんな…」
「だからね、それが嫌だったら僕と取引しよう。」

そうして、私は英智さんの屋敷で暮らすことになった。英智さんとの取引はこうだ。君をしばらく監察対象としてこの屋敷で保護してあげよう。その代わり、君が持っている情報を全部教えて。後、このネックレスは僕が預かる。どう?君としては堕天もされないしほとぼりが冷めたら噂も消えるだろうし一石二鳥だと思うけれど。そう曇りのない目で言われると断るわけにいかなった。その夜、英智さんは私の部屋を案内した。私が元々住んでいた場所よりうんと広い部屋だった。英智さんが一通り私にへの間取りを教えてくれる。どうやらこの部屋で全てが完結するらしい。なまえちゃん、と柔らかく呼ばれたので彼を見た瞬間であった。英智さんが近付いてくる。楽しそうに笑っていた。

ガチャン。

首に何か冷たいものが取り付けられた。え、と声が出る。英智さんはニコニコしながら私の腕を引いて歩き出す。歩くたびに何かがガチャ、ガチャ、と動く音がした。英智さんは私を鏡台まで連れて行き、両肩に手を置いた。

「ふふ、よく似合ってるよ。」

鏡の中に移る私の首元には、鎖が繋げられていた。

「え、え、な、何で、」
「えーだって朔間零のお気に入りなんて気になるに決まってるよ。君のことが色々知りたいから、念の為逃げないようにね
。」
「そ、そんな、に、逃げません、し、零さんだって、そんな知りません、し、」
「本当かなー。そうだとしたらますます気になってしまうよ。うん、だからしばらく君はこのままね。じゃあ僕は今から仕事だから、いい子で待っているんだよ。」

英智さんは私の頭を撫で、そのまま部屋を出て行った。ずるずる、と床にずり落ちる。こんなのあんまりだ。思えば零さんに会ってから散々だ。大好きだった友人たちには避けれらるし、物を投げて、まるで皆私を憎いみたいな顔をして。挙げ句の果てにスパイ容疑の疑いをかけられ、ペット扱いだ。全部零さんに会ってからだった。勉強した通りだ。やはり悪魔は私たちとは相容れない存在なのだ。


私は、その日夜遅くまで泣いた。英智さんの側近らしき天使がご飯を持ってきたが、私が何を話しかけても淡々と事務的な返答をし、すぐにどこかへ行ってしまった。もしかしたら私は一生このままなのかもしれない。そう思ってベッドに顔を埋め泣いた。しかし、だんだん涙も出ないようになってきた。疲れ果て、ぼーっと窓の外を見つめた。月が嫌に赤い。しばらくそのまま窓を眺めていると、ばっと何かが横切った。何だろうと思って目をパチパチとすると、いつも間にか外には誰かがいた。大きな黒い羽、怪しく光る赤い瞳。私と目が合ったその瞬間、その瞳はゆっくりと細められる。思わず後退りすると、背中がベッドの端にぶつかった。
彼はいつも間にか部屋に入ってきた。窓の音が立つことはない。おそらく魔法か何かを使ったのだろう。

「久しぶりじゃのう。嬢ちゃん。」
「あ、あ、れ、零さん…。」
「ああ!我輩のことを覚えていてくれたのか!嬉しいのう…。」

零さんが一歩一歩私に近付いてくる。私は何故か冷や汗が止まらない。この前会った時と違う。言葉にはできないが、彼の纏う雰囲気が天使のそれとは違った。

「その感じじゃと我輩が悪魔だと天祥院くんに聞かされたのかのう。そこまで露骨に怖がられると我輩ちょっと傷付く…シクシク…。まぁ時間の問題じゃし良いけどな。しかし、天祥院くんはすぐこうやっておもちゃ扱いするのう…。鎖、苦しいじゃろ?解いてやろう。」
「あ、あの、何で、」
「ん?何でって、何でここに来たのかってことか?なまえちゃんを迎えに来たんじゃよ。ほら、宝石、渡したじゃろ?」
「宝石って…」
「あれは我輩のお嫁さんの証ってことじゃ。でもなまえちゃんは天使じゃからまずこちら側に引き込まないと駄目なんじゃよ。少し時間をかける必要があった。まず宝石には我輩の魔力が溜まっているからそれを持つことで我輩に馴染むようになる。周りもそれに気付いてなまえちゃんを排除するよう動くじゃろうし…まぁ問題は天祥院くんじゃったけど、やはり我輩の愛し子と気付いたら殺したりはせんかったな。」

嬉そうにペラペラと話す零さんの話がよく分からない。お嫁さんって何だ。こちら側に引き込む?何を行っているんだろう。私はそうして欲しいなんて一回も言っていないし、零さんと会ったのはこの前が初めてだ。

「なまえちゃん?どうした?そろそろ行かないと天使たちが気付いてしまうぞ。ホレ、早く準備しよう。」
「わ、私、その、零さんと、一回しか、お会いしたことないですよね、それなのに、お嫁さんとか、おかしい…」
「おかしい?何がおかしいんじゃ。そもそも婚儀を結ぶのに回数なんて必要か?必要ないと思うがのう。というか、我輩たちこの前会ったのが初めてじゃないし。…あーあ、やっぱり覚えてないか。悲しいのう。」
「なに言って…。」

零さんは私を見て眉を下げた。とても悲しそうな顔をしている。会った?いつだろう。昔零さんと会った記憶なんてない。バタバタ、と遠くからから足音が聞こえてきた。零さんが途端に厳しい顔をする。すると、彼はベッドの上に突然乗り上げ、私の体をうつ伏せにして押し付けた。突然のことで抵抗したが、全く歯が立たない。零さんの手が羽の根元まで近付いた。嘘。まさか。

「すまんのうなまえちゃん。向こうにこれはどうしても要らないから、ちょっと痛いけど我慢してくれ。」
「いや、やめて、やめてください、!嫌だ、私は天使なんだ!」
「あーもうほら天使が来るから、暴れないで。手元が狂うじゃろ。」
「お願いします、それだけは、それだけは。」
「暴れんなっつってんだろ。止まれ。もっと痛く剥がしてやろうか。」

腹の底から出ているかのような低い声に、思わず体が止まる。羽が剥がされるのは嫌だ。痛いのも嫌だ。でも怖い。体も振りほどけない。抵抗したら何されるか分かんない。怖い、怖い。
そう私が止まっている間に、零さんは私の羽の根元まで手を持っていき、羽を剥がしていった。ブチブチと、体から羽が剥がれる音がし、遅れて痛みがやってきた。

「ああああああ、ひ、い、い、ああ、うう、うっ。」
「よしよし、よく我慢したのう。止血は後で向こうでしてやるからな。ちょっと時間がないから、このまま行くぞ。ほら、眠っておれ。」
「あ、いや、やめ、あ……。」

瞼がだんだん下がってくる。どうしてこうなったのだろうか。私はただ普通に過ごしていただけなのに。体の力が抜けていく。最後に私が見たのは、ドロドロと煮詰めたような瞳で私に微笑んでいる零さんだった。