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ジャミルに洗脳されたくない


ジャミルに駄々こねられるシリーズの続き
※ユニーク魔法ネタバレあり





「何故防衛魔法なんて自分の体にかけているんだ。」

ポツ、と目の前の人物が漏らした言葉に体を震わした。言った当の本人は涼しい顔をしながら明日の準備をしていた。私はカリム様が眠ったのを確認し、自室兼ジャミルの部屋の掃除をしていたところだったので、カランと箒を落としてしまった。

「落ちたぞ。」
「あ、ご、ごめん。」

ジャミルがこちらの方まで来て私に箒を渡す。距離が近くなってドキリとした。嫌な意味で。
私が自分自身に防衛魔法をかけている理由。それはたった一つ。ジャミルにユニーク魔法をかけられたくないからである。
私とジャミルは何故か以前から恋人という関係になっているが、私は彼に恋人になって欲しいと言われ、うんと言った記憶がない。半ば無理矢理こんなことになっているが、何とか毎日やり過ごしていた。まぁもう綺麗な体ではないんだけど…うん…。
でも私は彼と体を重ねるうちに決意した。カリム様が卒業したら絶対逃げてやる。今度こそ外国へ行き、もうそこで別の誰かと結婚してでも良いから、熱砂の国から逃げよう。このままじゃ永遠に自由はないし、ジャミルと一生一緒にいないといけない。だというのに、最近ジャミルが私の目をじ…っと見つめてくる時があった。
嫌な予感がして大体逸らすが、何度も何度も目と目を合わせようとしてくるのだ。
私は気付いた。ジャミルは私にユニーク魔法をかけようとしていることを。
今思い返しても、今までユニーク魔法をかけられなかったことは奇跡だと思うけど、恋人になったことを良いことに、彼は行動に移そうとしている。しかも大体情事の時に。やめて欲しい。ただでさえ最近流され気味だというのに洗脳でもされてみろ。絶対口にも出せない恥ずかしいことをされるに決まっている。しかも言質だとか言って覚えのない言ったことを録音なんんかされたら、確実に外堀を埋められる。
熱砂の国に帰ったら、皆私よりジャミルの言っていることを信じるだろう。何故なら彼の家の方が格上だから。くそう格差社会。絶対出ていかなければ。最近当主様と喋っていて分かったことなのだが、カリム様のご学友はジャミルがオーバーブロットをした時の動画を配信はしていなかったらしい。当主様と一瞬話が噛み合わなくて焦った。なんとか誤魔化したけど。危ない危ない。そうなってくると、結局私の立場は国の中では低いので、私がいくら違うと言ったところでだーれも私のことなんか信じないのである。酷いよね。

なので、自分の身を守れるのは自分。カリム様に教えてもらったご学友のように、魔法を跳ね返せるような強力な魔法ではないものの、直接的に魔法にかけられるのは避けられるので、ジャミルといる時は防衛魔法をかけるようにしていた。

「で、どうなんだ。」
「いや、あの、前からジャミルに言われていたように、よく考えたら学園は男の人ばっかりだし、あ、あと、自分も守っていかないと、カリム様に何かあったら困るかなと思って…。」

ジャミルは自分のベッドシーツを整えていた。私はその後ろ姿に必死で言い訳を連ねる。何でこんな必死で口からでまかせを言わないといけないのか。カリム様を守らないといけないという思いに嘘はないけれど。ジャミルがシーツを整え終え、私の方を向いた。

「俺が守ってやるから問題ない。それに、俺といる時くらい解いたって問題ないだろう。」
「え…。は、はははー。でも本当に、ジャミルに迷惑帰るわけにいかないし…。」
「…ふーん。」

ジャミルはそのままベッドにゴロンと転がった。ちら、と私を見た後、ちょいちょいと片手の指を動かした。早くこっちに来いということだろう。仕方なしにベッドに向かうと、ジャミルに向かいから抱きしめられた。前はジャミルに手を出されるのを恐れながら、この大きなベッドの下にシーツを敷いて一人で寝ていたけれど、今や毎日ジャミルと二人で寝ていた。恋人になった(らしい)日にも以前と同じようにベッド下にシーツを敷けばジャミルに引っ剥がされてしまったのである。この腕に包まれながら寝たらいつも思う。早く逃げよう。手遅れになる前にと。



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カリム様のご飯を作るのは、ジャミルと私で日替わり交代で行っていた。そうすればお互い料理をしない日の朝はゆっくりできる。まぁ、朝起きたら何故か大体ジャミルは起きてるんだけど。
今日は私の番だったので寮の厨房まで向かう。最初に寮に入った時は簡素な厨房だったが、当主様が後からまた出資したらしく、かなり広めの厨房ができていた。正直一人で作るのだからあんな大きくなくて良い。
厨房まで向かうとなんだか良い匂いがしてきた。スパイスの香りだ。誰か早起きして自分の朝食を作っているのだろうか。スカラビアの厨房で朝食を作ってる人なんて自分が入ってからあんまり見たことないけどなぁ。珍しいこともあるもんだ。
…なんか嗅いだことある匂いだな。これはまさかジャミルの…。確かに朝起きた時には隣は間抜けの殻だったけど。いや、まさか。まさかなぁ。


「そのまさかだった。」
「?おはようなまえ。」
「お、おはようジャミル。」

ジャミルは私に挨拶を済ませたらすぐにキッチンの方に向き直った。辺り一面スパイスの良い香りがする。ジャミルは皿を持って鍋から皿に料理を移していた。熱砂の国の朝食でよく食べられているスープだ。グウ、と思わずお腹が鳴ったので咄嗟に押さえる。

「寝ていれば良いのに。」

ジャミルがテキパキと朝食を装っていく。こちらをチラリとも見ずに作業を進めていく。いつ見ても長年の従者なだけあって、手際が良い。

「いや、そもそも今日の朝食当番って私じゃなかった?もしかして間違えたのかな…。え?でも昨日もジャミルだったよね。」
「そのことだがな、今日から君は料理をしなくても良いぞ。」
「へ?」

思ってもいない言葉に思わず声が裏返る。ジャミルは手を止めてこちらを見ていた。もう既にカリム様の朝食は出来上がっていた。

「え、なにそれ。どういうこと?」
「そのままの意味だ。」
「え?でもずっとそれが私たちの仕事なわけだし、こういうのは分担した方がお互い楽でしょ。ジャミルは学生生活もあるわけだし…。」
「料理は一人で作る方が効率的だし、火や包丁を使うから危ない。昨日話していて君が自分の身を案じているというのは分かった。それだったら俺一人でやった方が君も安心だろう。」
「え…そ、それと昨日言ったことは別だよ。私はあくまでも魔法とかで何かされた時用の護身の一環で…。」
「調理中に襲われでもしたらどうする?君のことだから火元とかが気になってまともに戦うこともできないんじゃないか?」
「う…。」
「昨日なまえの話聞いて確かに俺も思った。何かあってからじゃ遅いってな。そういうことだから、調理はしなくて良い。」

ジャミルはそのまま朝食を持って歩き出した。今からカリム様の部屋まで持っていくのだ。私はただ彼の後ろ姿を見ながら呆然と突っ立っていた。何だあの謎理論。しかし、ジャミルがああやって私を説き伏せる時は、私が何かを言ったところで無駄なのだ。あのように謎理論を積み重ねられ、私が何も言えなくなるだけなのである。私は仕方なしにジャミルの後ろを着いていった。
とりあえず、私は料理を作らなくても良いらしい。私の数少ない仕事が一つ減ってしまった。もう昼間にたまに行う掃除しか残されていない。だって洗濯物は「どうせ俺も洗うんだから一緒だろ」とか言ってジャミルがやっちゃうし、カリム様の護衛もほとんどジャミルがやっているようなものだ。かといって掃除もジャミルがほぼ毎日綺麗にしているおかげでほとんど埃さえない。つまり私のはもう仕事がないのと一緒なのであった。まじで何しに来たんだ?

「はぁ…とりあえず部屋に戻ろ…。」

仕方がないのでジャミルと私の部屋まで戻った。横の部屋からカリム様の朗らかな声が聞こえて、妙に寂しくなった。
昼になったら図書館に行こう。図書館に行って気になってた本をたくさん借りよう。そうだ、私は元々勉学がしたかったのだから。やりたいことをたくさんやって早く自分の故郷から抜け出さなくては……。






朝食を終えジャミルが部屋まで戻ってきた。カバンを取り出して学校に行く準備をしている。マジカルペンをポケットにしまいながら、そうだ、と彼は声をあげた。

「今日から一人で図書館に行くのはやめろ。」
「え?」

ジャミルは私の顔も見ずに本をカバンに詰めていく。また私は呆然とそこに立つ羽目になった。は、と気付いてジャミルに近付いていく。私が近付いてようやくジャミルが私を見た。

「あの、え?ちょっとよく分からないんだけど、何で?」
「ああ、分かりにくかったか?俺が言いたいのはつまり、今日から一人で行動するなってことだ。」
「何で?!」
「自分の身に何かあったら怖いんだろう?」
「いや、怖いって言うか…。」
「心配するな。俺が側に居れば問題ない。前から授業中は寮の中にいるようにとは言っていたが、今後もどこかへ行く際は俺に伝えろ。着いていくから。」

ジャミルはそのままじっ…と私を見た。恐ろしくなってまた咄嗟に目を逸らす。こういう時にジャミルと目を合わせるのは絶対絶対に、危険だ。私はそのままジャミルの言葉を頭の中で反芻した。一人で行動するなって…。いや確かにさ〜?怖いとは言ったけどさ〜そうじゃないよ。それはあくまでも言い訳で、私はどちらかというとあなたが一番怖い。
なんて言えるわけもないので押し黙る。ジャミルはそのまま行って来ます、と何事もなかったかのようにサッと授業に行ってしまった。あの切替の早さ…何だあの男…私がぼんやりとジャミルが出ていった部屋のドアを眺めていると、横からカリム様の「ちょっと待ってジャミル!後五分!」という声と、その言葉にキレているジャミルの声が聞こえるのであった。



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ジャミルは言葉通り毎日私の図書館の時間に着いて来るようになった。図書館に行って数時間一人引きこもるのは、私の唯一の至福のだというのを知ってか知らずか、「危ないから」を理由で毎日来た。カリム様の側にいないと危ないのでは…?と思ったけれど、きっと何を言っても無駄なのだろう。ジャミルがそのことを考えないわけないのである。

そして、前言っていたご飯当番も本当に全部ジャミルがやった。カリム様は最初、なまえは作らないのか?と不思議そうな顔をしていたが、数日経つと何も言わなくなった。美味しそうにジャミルのご飯を食べている。微笑ましいな…カリム様は…。こちらとしては突然の宴に振り回されることがなくなったのでそれはありがたいのだけど。
しかし、私はあくまでも、カリム様のお付きとしてこの学園に着いて来たのだ。だというのに、最近は朝起きればジャミルが先にカリム様の朝食を作っていて、そのままカリム様とジャミルが学校行って、帰って来るまでボーッと待って、帰って来ても特にやることがないからカリム様と談笑して、たまに図書館行って、ジャミルが仕事を終えたらジャミルと談笑して……本当に何をしに来たんだ?状態なのである。

結局今日もジャミルが私の代わりに全ての仕事をこなしてしまったので、もう私は今日は寝るのみであった。せめてもの仕事として、シーツを整えるくらいはやっている。人間というものは恐ろしいもので、もうすっかりジャミルと同じベッドで寝るのは慣れてしまった。慣れてはいけないはずなのだが。

すると、後ろからその慣れた香りが近付いてきたと思えば、彼は後ろから私を抱きしめた。あまりにも気配がなかったので思わずビク、とする。ジャミルは気にせず私の首元に顔を埋めていた。またいつものやつか…と思った時である。

「もう良くないか?」

ポツ、ジャミルが呟いた。彼の声は大きくないのに、妙に耳の奥に響く。

「え?」
「自分に防衛魔法をかけているだろう。」
「あ、ああ〜」
「もうこれだけやっているわけだし、その魔法は要らなくないか?魔法をかけ続けるのは体にも良くない。なまえはもともと魔力も弱いわけだし。」
「い、いや〜〜〜〜〜。」
「今は仕事も俺が全てやっているから油断するような時間は無いし、昼は基本部屋にいるだろ?一人で出掛ける時間も今は無いし、夜も基本的に俺が側にいるから、その魔法はもう必要ない。そうだろう?」
「……。」
「な?」
「ハイ……。」

もうこうなれば何を言っても無駄なのだ。最近うんと学んだことだ。泣く泣く自分にかけていた魔法を外す。もうこうなったら、とことんジャミルと目を合わせないようにするしか「なまえ。」ジャミルに名前を呼ばれたかと思えば、体の向きを変えられ、ガシッと片手で私の顎を掴んだ。バチ、と目が合う。たらりと背中に汗が落ちる感覚。ジャミルはニコリと口だけ笑みを浮かべた。

「たまには趣向を変えようか、なまえ。」
「え?」
「瞳に映るはお前の主人ーー。」

し、しまったーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!







「これからも一生俺と一緒に堕ちてくれるだろ?」
「はい、ご主人様ぁ」
「じゃあ俺たちが卒業した後も、熱砂の国に、残るよな?」
「はい、ご主人様、あ、やだやめて、」
「はい、今の録音したからな。あー今何時だ?…まだいけるな。ほらなまえ、後もうちょっと頑張れるだろ?」
「ひ、ご、ご主人様、あ、もう、今日は、」
「まだいけるよな?」
「あ、そこは、ぁ、ん、わか、わかりましたから、許して、許して、」