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奪った愛は芽吹かない


ssの蝶よ花よの続き
not監督生




「ジャ、ジャックーーーーー!?」

相変わらず退屈な入学式で、突然現れた見知った顔に、思わず興奮して大声を出して立ち上がってしまった。あれは昔ヴィルくんと一緒によく遊んだジャック!うっそめっちゃガタイが良くなっている…!
リドルくんが私に向かってちょいちょいとマジカルペンを振ってみせたので大人しく座る。め、目が死んでいた…。怖すぎる。あれ私の年下なの?本当?
でもジャックの姿は確認したかったので、思わず前のめりになる。横にいたトレイくんがちょっと引いている気配がしたけど気にしている場合じゃない。
ジャックは私に世界一優しい後輩くんなのでとても嬉しい。この学園は、ヴィルくん筆頭に根性が捻じ曲がっていてやりにくい人ばかりだから、私の中で天使・ジャックが現れたことはとても大きいことなのだ!
あ、ジャック鏡に呼ばれた!どこだろう…。ハーツラビュルが良いけど、ジャックは獣人だしあれだけガタイが良ければ……やっぱな。サバナクローだよな。えーん、レオナ先輩苦手だから近付きにくいよぉ。

「お、次の一年はハーツラビュルか。今年はなんかヤンチャそうなの多そうだな…。なまえ、聞いてるか?」
「ううーん、ジャック、どうして君は獣人なの……。」
「は?」

トレイくんが何か私に話しかけていた気がするけど、私はそんなことよりジャックのことで頭がいっぱいだった。私はヴィルくんにいじめられた時はいつもジャックのところに行った。行って尻尾をモフモフさせてもらうのだ。涙でベショベショの顔をジャックの尻尾に当てるので、ジャックは最初めちゃくちゃ嫌がっていたけど、構わず続けたら向こうも慣れてきて何も言わなくなった。優しい。
しかし、私とヴィルくんが15歳で、ジャックがちょうどミドルスクールに上がった頃に、ジャックは私に尻尾をモフらせてくれなくなった。
顔を真っ赤にしながら「そ、そういうのは、恥ずかしいからやめてくれ!」と急に言われたのだ。ついこの前までさせてくれたのに…。しかもそれを言われたのが、前に言ったヴィルくんにラブレター粉砕された事件の直後だったので、私はもうショックにショックだった。ポロリと泣けば、ジャックはオロオロしながら私をギュッとした。私は彼の腕の中で、涙を流しながらこう思った。

(そんなことよりモフらせろ……)

その後すぐに私の進路が決定して忙しくなったので、ジャックになかなか会えないまま入学して離れ離れになったのであった。なんというか、我ながら昔はヴィルくん並みにむちゃくちゃで恥ずかしいな。

「なまえ、聞いてるか?ケイトと一緒にバラの塗り替えをして欲しいんだが…。」
「駄目だありゃ。もうオレがなまえくん引きずってくからトレイくんはリドルくん引き止めてて!」

何故か私の首根っこを掴んだケイトくんに引きずられながら、美しい思い出を回想するのであった。


-------


「ジャックジャックジャック!」
「うお!…あ、なまえ先輩、うっす。」
「何その他人行儀な感じ?!ショック!!ああでも尻尾がモフモフ……かわいい……癒し……。」

入学からリドルくんがブーストかけながら行った連日のパーティーようやく終わり、やっとジャックに会いに行けた。しかし、私がジャックの尻尾を触ろうとすれば、サッと後ろに尻尾を回された。ショック。ジャックの反抗期、まだ続いているの。

「じゃ、ジャック…。どうして触らせてくれないの…。久しぶりに会ったのに…。」
「いや、それは…前も言いましたよね。」
「恥ずかしいって?!私は恥ずかしくない!こんなに可愛くてフワフワしているのに触れないなんて……。」

ジャックが話していて油断している間に掴もうとしたらツイ、と尻尾が離れた。うう、やはり野性の勘は鋭いな。この前レオナ先輩の尻尾ガン見してたら「ああ"?」って凄まれながら睨まれたのを思い出す。その後一緒に授業を受け(させられ)ていたヴィルくんにはなぜか頭にチョップをされた。酷い思い出だ。

「つーか何でナイトレイブンカレッジにいるんすか。」
「あ、それはヴィルくんから逃げたい一心で……。結局無理だったけど……。」
「は?なまえ先輩女だから入れな…。」

私は必死でジャックの口を手で抑えた。ジャックは驚いたのか目を丸くしている。

「あのね、一応学園では男で通ってるからあんまり大っきい声で言わないでね!」
「む、」
「ヴィルくんにも必死で頼んでるの…そしたらヴィルくん脅してきてね!黙ってる代わりにアタシの言うこと聞きなさいって言われて、もう二年以上いじめられてるの!酷いよね?!」
「むご、もが、」
「あ、ごめん。」

ジャックが必死でもがいてるのに気付き、ジャックの口から手を離した。ジャックは何故か真っ赤になっている。

「なまえ先輩ほんと、距離感考えてください…。」
「え?あ、それトレイくんとケイトくんにも言われたなー。」
「……はぁ。」

後ろから聞きたくない溜息が聞こえてきた。ピタ、と私が体を硬直させると、コツ、コツ、と足音が聞こえる。ジャックも気づいたのが私の背後を見た。

「なまえ。アンタ何してんのよここで。」
「ヴィ、ヴィルくん。」
「ケイトにハーツラビュルの行事が落ち着いたって聞いたから、アタシの部屋に来なさいってアンタに連絡したのに一向に連絡が来ないからわざわざ迎えに来たのよ。何やってんの?重要な連絡はすぐに返事するのが基本でしょ?」
「あ、ご、ごめんなさい…。」
「ヴィル先輩」
「あら、ジャック。また会ったわね。」
「あの、なまえ先輩怖がってるから加減してやってくれませんか。」
「は?」

じゃ、ジャック!!!!!!!!
嘘でしょ、なまえお姉ちゃんは今猛烈に感動している。ジャックの方に期待の眼差しを向ければ、ヴィルくんにギュッと手をつねられた。痛い!

「なーに、なまえ。怖いの?アタシが。」
「え。」
「昔から先輩は、間違ったことは言ってないっすけど…。たまになまえ先輩が怯えているような顔をするので気になってたんです。」
「ジャック…。」

あんたええ子や。ええ子やで!ヴィルくんにつねられている手がさらに痛む。まだ力を入れられるのか。綺麗な顔して本当にゴリラだ。

「ヴィルくん、痛い、」
「ねえジャックが言ってることは本当?本当にそう思ってる?」

ヴィルくんがつねっている手とは逆の手で私の両頬を掴んだ。無理やりヴィルくんと目が合う状態になる。ヴィルくんは冷たい目をしていた。この目の時はヴィルくんの思う通りの発言をしないといけないということは経験則から分かっていたので、首を横に振る。
でないと、私の今日のオヤツのカップケーキは彼に奪われてしまうのだ。
ヴィルくんは私の様子を見て、満足そうにフッと笑った。手を離してジャックの方を見る。ガシ、と肩に腕を回された。

「ですってよ。アンタもこの子が心配なのは分かるけど、この子の面倒はアタシが見てるから心配しなくても良いわよ。昔からこの子の考えてることは分かるし。」
「……でも。」
「何か?」
「………いや、何でもないです。すいません。」

ジャックくんはポリポリ頭を掻いて、ペコ、と頭を下げて廊下を歩いていった。待って。行かないで。

「なまえ。」
「ひゃい!」
「アタシの部屋、行くわよ。」
「……は〜い。」

ヴィルくんは後ろで仁王立ちしていた。迫力満点だ。この人がラスボスで出てきたら全てを諦めてしまいそうだ。従わざるを得ない。

「ちょっと。」
「え?」
「何でそんな離れて歩くのよ。」
「ま、前からこうじゃない?」
「ふーん。さっきジャックにも言われてたけど、他人には無意識に距離が近い癖に?」

ふーん、とヴィルくんはもう一回呟いてコツコツと前を進んだ。慌てて後ろを着いていく。途端に機嫌が悪くなった気がするけど、何で?意味がわからない。やっぱりヴィルくんは難しいし厳しいし怖いなぁ…。