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ジャミルに迫られる


ジャミルに駄々こねられるの続き



カリム様のお付きとして、ナイトレイブンカレッジにやってきてから一年経ち、カリム様とジャミルは二年生になった。二年生になるちょっと前にカリム様は寮長になり、ジャミルはその補佐で毎日バタバタとしている。今日は式典服を派手にするとかどうとかで部屋を飛び出して行った。私は学園の中がどうなっているかあまり分からないのでもうここはジャミルに任せることにした。血相を変えて飛び出して行ったな。その後はことなきを得たらしいが、代わりに変な狸と不思議な人が現れたらしく、今年の入学式はてんやわんやの大騒ぎだったそうだ。
私は学園のことはあまり分からない。私は入学資格を持っていないただのお付きだからだ。カリム様やジャミルからだいたいのことを聞き、それは大変でしたね、と返事するのみである。私はずっと勉学がしたいと思っていたから、良いなぁと思う。本当に羨ましい。

「カリムが火に当たってな。手当てするのが大変だった。一応父に報告はしたが目を離すなと叱られた。」
「そうなんだ。」

ジャミルが私をきつく抱きしめたまま今日起こった出来事を話した。ジャミルはここに来る前から、何かあったらこうなることが多い。私にブチブチ文句や嫌味を言うだけの日もあったが、徐々に私に甘えるようなことをするようになってきた。最初はいつも我慢しているから発散できるところがここしかないんだろうな、って思っていたけれど、思っていたよりジャミルは私を頼りにしていたらしい。ついには私の留学を阻止してここに連れてくるまでにはなった。
毎日毎日カリム様のお世話をして、夜になればやってくるジャミルを甘やかして、何もない時は掃除したり本読んだり…なんというか、お屋敷にいる時よりとにかく退屈だった。おまけに昼間、二人が授業に出ている時、私はジャミルにより外出制限をかけられていた。言うには男子校に一人女が混じっていたら変だし危険だからだそうだ。それじゃあ図書室に行けないと反論すると、放課後に俺が一緒に行ってやると言われた。それを言われると返す言葉もないのである。ご丁寧にしっかり防衛魔法をかけて登校して行くのだ。この精巧な魔法でオール50点なんて笑わせる。猫被りすぎだろ。護衛としてカリム様に着いていったのに、どうして私が守られてるんだ。

「でも異世界から来た子かぁ。」
「気になるのか?」
「うん。」
「やめておけ。どうせ碌でもないことになる。魔法が使えない人間なんて怪しすぎるだろ。」
「う〜ん…。でも帰る場所ないんだよね。」
「なまえ。そんな他の奴のことは良いから。」

ツゥ、とジャミルが私の唇をなぞった。え、と口にする前にそれが重なる。ちゅ、と軽くキスされた後に、少しずつ深くなっていった。最近ジャミルの甘えがどんどんエスカレートしている。ずっとハグしてジャミルの愚痴を聞くだけだったのに、いつのまにか口付けを求められるようになっていた。

「ん、んむ…ぅ、ふっ、」
「はっ、む、」

ちゅ、ちゅる、と互いの舌が絡み合う音がする。私はボウっと目を開けると、ジャミルの目とあった。じ、と私の目を見ているのがなんだか怖くなって、目を逸らそうとしたけど顔はしっかりジャミルにつかまれていたので、逸らすことはできなかった。思わずギュッと目を閉じる。はっ、はぁ、ふ、と息を漏らす声が響いた。

「なまえ…。」

ジャミルが甘えるような声を出してきた。私の腰あたりを軽く触っている。私は焦って、咄嗟にジャミルの頭を撫でた。ジャミルはポカンとした顔になった。

「きょ、今日もよく頑張ったね。偉いねジャミルは。世界一偉いと思うよ。」
「お前な、そんなことで俺が喜ぶと思うのか?」

そう言いながら顔を私の肩に埋めた。これはもっとということだろう。ほっ、本日も貞操は守れそうだ。
最近私は別の危機感を感じていた。ジャミルが私にプロポーズ紛いなことをしてきた日から、やたら距離が近い。いや、前から近かったけど…なんというかこう…。うん、キスもされているし、なんだったらそれ以上を望まれている気がする。現に、私の部屋は用意できないと学園側から言われた時に、間髪入れずジャミルと一緒の部屋にすると彼が決めた。私はどっちかというとカリム様が良いし、護衛なんだったらカリム様の部屋にいた方が良いだろうと言ったけど、「女のお前と一緒の部屋にして万が一のことがあればアジーム家の大問題だ」と一蹴された。万が一も億が一もないのに。どちらかというと手を出すのは貴方の方では…?なんてそんなこと言えるはずもないので、毎日ジャミルの大きなベッドの下にシーツを敷いてビクビクしながら寝るのだ。
今日もなんとかジャミルの怪しい動きを回避したので、急いで立ち上がり寝る前のホットミルクを用意する。これを使わないと眠れない。恐ろしくて。ジャミルもやってきて俺の分も用意してくれ、と言ってきたので二つカップを置いた。ジャミルがこちらをじっと見ていたことには気づかなかった。



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あの監督生が来てからとにかくトラブル続きだったらしい。
カリム様の学友が、パーティー中にオーバーブロットしたり、ジャミルが怪我をしたマジフト大会であのレオナ・キングスカラー様がオーバーブロットしたり、またまたカリム様の学友がオクタヴィネル寮付近でオーバーブロットしたり。オーバーブロットばかりだな。ジャミルが怪我したのもカリム様の学友のせいだったそうだが、本当に勘弁して欲しかった。おかげでジャミルが私に世話をするよう要求してきたので、それこそジャミルに付きっきりだった。カリム様のこともあるのに…。しかし、図らずもそのおかげで授業には参加することができ、基本的に見学ばかりだったが、座学もできて楽しかった。とりあえず件の学友は睨み付けておいた。耳が大きくて可愛かった。

そしてその波はなんとスカラビアにもきてしまったらしい。カリム様の様子がおかしいと思ったらジャミルが操って寮長の座を狙っていたことが、強引に入ってきたお客様から分かった。しかもなんとジャミルがオーバーブロットをしたのだ。魔法が得意なのは知っていたけれど、まさかあそこまで高級魔法が使えるとは…。恐るべしジャミル。例の監督生にも初めて会ったけれど、本当にただの人間で、こんな大変な状況に巻き込まれるなんて大変だなと同情した。


「はい、はい。いや、その後は特に。ジャミル様も錯乱状態だっただけですので問題ありません。カリム様も大きな怪我とかはありません。落ち込まれている様子もないですし…。私?私は大丈夫です。ええ、ええ。申し訳ございません。はい、失礼致します。」

プツ、と携帯を切る。最近日課のアジーム家当主との連絡であった。あのオクタヴィネルの寮長のおかげで、ジャミルの悪行が筒抜けになってしまい、私に余計な仕事が増えた。ますます雁字搦めになっている。ちょっと前までは少しの自由を求めて留学しようとしていたのにもう今は諦めていた。

そしてもっと困っていることがある。

「なまえ。終わったか?」

ピトリ。そんな効果音がつきそうな程に私の背中にジャミルがくっ付いた。ここはスカラビアの廊下である。周りのスカラビア生がギョっとしてこちらを見たのち、急いで部屋に入っていく。やめて、置いていかないでくれ。

「今日は長かったな…。俺も仕事終わったから、部屋に戻ろう。」
「誰のおかげでやってると思ってるの。」
「というか、俺のこと当主様にはジャミル様って呼んでいるんだな、何か良いなそれ。今からそう呼んでくれないか。」
「か、勘弁して…。」

あくまでバイパー家が私の家より格上で明確な上下関係があるから公式でそう呼んでいるだけだ。ジャミルは嬉しそうにしているが、本人を前に様付けしたくない。

「なぁなまえ。早く部屋に入ろう。今日も聞いてほしいことがたくさんある。」
「あ、あの、ジャミル…。背中、くすぐったいから指でその、ツーってするのやめて…。」
「あ、なまえ、ジャミル!どうしたんだこんなところで。」
「カリム……。」

ジャミルが地を這うような声を出した。途端に背後から抱きしめられる。う、息がし辛い。私の前には目をクリクリさせたカリム様が立っていた。

「あー!いいな、なまえにギュってして!オレも、オレも!」
「ふっざけんな!この前言っただろ!なまえは俺のだ!」
「え?何でだよ、昔はよくしてたのに。なー?なまえ!」
「か、カリム様それ以上喋らないで。」
「は………………………………?」

ジャミルの視線が私に移ったのがヒシヒシと感じる。カリム様が言ったことは本当のことで、カリム様は昔というが、それこそ3年くらい前まで強請られてやっていた。流石に次期当主にそんなことはできないのでやめるようにはなったけど。
オーバーブロット後、ジャミルはカリム様への嫌悪、いや憎悪か?たぶん難しい感情だろうけど、を隠さなくなった。そして、俺は好きなことをする!と宣言したその日から、俺はなまえのことが好きだとスカラビア全員の前で言われた。私はあまりの恥ずかしさで、ひぇ…と言うしかなかった。それ以来オープンに甘えるようになったジャミルは、寮生の中でちょっとした名物になっているらしい。やめて、そんなもの名物にしないで。

「おいどういうことだ。説明しろ。」
「あ、か、カリム様。今日、お一人で寝られますか?もし良ければ夜の護衛を致しますが。」
「おい」
「?いや、大丈夫だ!毎日グッスリ眠っているぞ。それに、お前らの邪魔するのも悪いし!」
「お、お前ら……?」
「恋仲なんだろ?ジャミルは昔からなまえのことが大好きだったからな〜。最近仲良さそうだし、オレはいつだって二人の味方だぜ!」

ニカっと笑ったカリム様の白い歯があまりにも眩しい。眩しすぎて泣きそうだ。え、こ、恋仲…?いつのまに…?私ジャミルに告白されたけど「はい」って言ってませんよね……?

「なぁカリム。俺の味方なんだったら、この状況が邪魔だとは思わないか?」
「か、カリム様。そんなことはございません。よ、よかったら寝る前のホットミルクを、」
「あーそれもそうか…。ごめんなぁオレ本当にそういうの疎くて…。それに、ホットミルクくらいオレ一人でやる!ジャミルにも、なまえにもなるべく頼らないように頑張るぜ!それじゃ、お休みー。」

カリム様はそう言ってバタンと部屋に入っていった。嗚呼、光…。カリム様は光だ…。自分のことをケチョンケチョンに言った従者のことを特に何も咎めず、少しでも楽にするため自立しようとしていらっしゃる…。でもお願い。この状態で帰らないで。

「なまえ。帰ろうか、部屋に。」

ジャミルがそう言いながらズルズルと私を引きずっていく。ああ詰んだ。



その後、私が必死に守っていた貞操はアッサリと崩れ去った。さらに、朝起きれば私の名前が記入済みの婚姻届が出来上がっており、来年のジャミルの誕生日に提出すると頬を染めながら言われた。何があったんだ昨日。お、覚えていない。
私は口を引きつらせながら笑うしかなかった。