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行け行けフロイド


※現代
※夢主社会人
※元の世界に帰ってきて記憶なくしてる



「小エビちゃんおはよ〜。今日は卵サンドだよ。」

誰だお前。
ジリジリといつもセットしてある時間になった目覚ましを合図に起きると、何だか良い匂いがしたのでぼーでとキッチンを見ると見たこともない高身長の男が立っていた。彼は慣れた手つきでコーヒーを準備していた。何でそこにマグカップがあることを知っているの。
慌てて周りを見渡したけれど、そこは紛れもなく私の部屋だった。昨日は一滴も飲んでないし、普通にテレビ見てお風呂入っていつもよりちょっと早く寝たくらいなのに。ああ、これ、夢なのか。

「アハハ、何キョロキョロしてんの?はい、どーぞ。」
「ど、どうも……?」
「小エビちゃんコーヒー砂糖いる?二個だっけ?」
「二個です……。」
「やっぱ変わんないね〜。」

変わんないって何だ?私あなたと知り合いでしたっけ……?駄目だ、何一つ思い出せない。こんな大きいお友達がいたら絶対に覚えてるはずなのに、ひとかけらも記憶にないなんてことはあり得ない。彼は自分の分の卵サンドを手に取り、ガバッと口を開けて食べ始めた。ギザギザの歯だ。怖い。私はというと、それに手をつけることができなかった。知らない人が家にいるというだけで怖いのに、その人に料理をもてなされるなんて絶対に変だ。もしかしたら何か入っているのかもしれない。そう思ってじっとサンドイッチを見つめていると、目の前の人物は不思議そうな顔をした。

「食べねぇーの?」
「ぁ、あの……。」
「もしかして具合悪い?大丈夫?」
「そういうわけでは……、あ、あの、誰かと勘違いされてませんか……?ここ、わ、私の家で、」
「?してないよ?小エビちゃんの家でしょ?」
「い、いや、私はあなたのこと知りませんし、小エビではないと思います……。」
「は?」

先程まで穏やかに微笑んでいた目が急に見開かれた。あの優しそうな雰囲気はどこに行ったのだろうか。ひ、と変な声が出た。後退りしようにも、私の狭い一人暮らしの部屋ではどこにも行き場はなかった。彼は覚えてねぇーんだぁ、ふぅん、と言って、私の手を握った。

「じゃあ小エビちゃんが思い出すまでここにいるね!」
「へ」


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それからフロイドさんは本当に私の家にずっと留まり続けた。働かないんですか、と聞けば、そこそこ持ってきてるから大丈夫〜と本当か嘘かよく分からないことを言われた。けれど、食費は毎回きっちり振り込まれているし、ご飯は作ってくれるし、たまに気まぐれで掃除もしてくれるので、私は突然家に来た不審者のことをありがたいと感じるようになっていた。たまにめんどくさぁーい!って言って何もかもやらなくなる時はあるけれど、彼が作ってくれるご飯は本当に絶品だった。おそらく私は彼が言う小エビではないけれど、彼は私のことをずっと小エビちゃんと呼んできた。早く思い出せよ、と初日こそは言ってきたけど、それからは全く言わなくなったので、少し安心した。私があの時、あなたのことは知らないと言った時のフロイドさんは本当に怖かったから。普段ヘラヘラしている人が怒ると怖いの典型例みたいな人だ。彼の場合、気まぐれで機嫌を損ねることはあったが、あの時のような異様な雰囲気を感じることはなかった。

「はい、小エビちゃん、今日はタコライスでぇーす!」
「わーい、美味しそう!」
「今日もお仕事ご苦労さま〜。今日は洗濯物もやっといたよ、俺偉いでしょ〜?」
「偉い偉い、ありがとうございます。」

フロイドさんの頭を撫でる。彼はこうすると、キャーと喜ぶ。ものすごい大きい人がはしゃいでいる様は、非常に可愛らしい。彼の様子を見るに、今日はご機嫌デーらしい。
よし。今日ならいけるな。

「フロイドさん」
「なぁに〜?小エビちゃん、もっと撫でて〜。」
「撫でます。何度だって撫でますから、お願い聞いてくれますか?」
「いいよ、聞いたげる。」
「明日飲み会行ってもいいで、」
「駄目に決まってんじゃん。」

途端に沈黙が流れる。フロイドさんが住み始めてからちょっと困ったことが起きてしまった。以前は頻繁に行っていた友人や会社の人との飲み会に行けなくなってしまったのである。最初に行こうとしたのは彼が住み始めて1週間目のことで、今日は夜遅くなる旨を彼に伝えたところ、めちゃくちゃ駄々をこねられた挙句、肩をガブっと噛まれてしまった。すごく痛かったので、痛みに弱い私は渋々その日は行かなかった。
またある日は彼に抵抗して内緒で飲み会に行ったら、帰ったら家の隅で電気を全く点けずに涙を流すフロイドさんがいて、飛び上がってしまった。私が帰ってきたのを確認するや否や、俺を捨てないでぇと号泣されたので、罪悪感でいっぱいになってしまった。フロイドさんは私の子ども……?それ以来、飲み会には行っていなかったのだが、明日は会社の大事な飲み会だから、できれば行きたかった。機嫌が良い時を見計らって言おうと思っていたけれど、フロイドさんはあまりにも機嫌がコロコロ変わるので、見極めるのが本当に難しく、結局前日になってしまった。結局ダメだと一刀両断だが。

「会社の大事なお付き合いがあるんです……。フロイドさんだって一応、働いている所はあったでしょう?」
「何それ、パーティーみたいなもん?面白くないでしょ、そんなん。」
「ぱ、パーティー?そんな大それた物ではないですけど……。」
「小エビちゃんはそんなとこ行かなくていいでしょ、俺とずっと一緒にいて?ね?」

さぁ食べよ〜とフロイドさんはさっと話を逸らし食べ始めた。こうなった後にしつこく食い下がると、また機嫌を損ねてどこかを噛まれてしまうか、泣かれるか、もしくは明日のご飯を作ってくれなくなってしまう。仕方なく私もご飯に手をつけ始めた。フロイドさんのご飯は絶品なのだ。正直いなくなってしまうのが想像できないくらいには。また明日の飲み会には行けないけれど、今後のこの食事がなくなってしまうことを考えれば、私は飲み会を諦めざるを得なかった。ため息をつく私を見て、フロイドさんはニコリと微笑んでいた。


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「フロイド、最近はどうですか。」
「あ、ジェイド〜。やっぱ鏡越しで喋るの変な感じだね〜。ふふ、もうバッチリだよ、毎日幸せ〜。」
「そうですか。もうすぐこっちには戻って来れそうですか?」
「俺は早く帰りたいけど〜小エビちゃんがまだしぶといからもうちょっとかな〜。」
「アズールの薬はいかがです?」
「うん、味分かんなくなるように濃い目のご飯作ってる。最近やっと"そっち"の匂いするようになってきたよ。夜小エビちゃんが寝たら、俺が薬口移ししてるし〜。」
「そうですか。」
「でもぜーんぜん思い出してくんないの。俺は優しいから、できれば俺のこと思い出した状態で連れてってあげたいんだけどなぁ〜。」
「そちらへの執着が強いんではないですか?」
「……あーそういえばずーっと飲み会行きたいとか言ってくるわ。まじで鬱陶しい。俺が家にいるのに何で遊びたがるわけ?」
「まぁまぁ。いずれにせよ、連れて帰ってしまえば、彼女は二度とそちらで暮らせないんですから。最後くらい良いんじゃないですか?」
「駄目、絶対駄目。小エビちゃんは、ずーっと俺と一緒にいるの。他の奴と一緒にいるとか無理。そいつ絞める。」
「おやおや、でしたら早く実行に移すことですね。事を荒げないでくださいね、フフフ……。」