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ジャミルに駄々こねられる


カリムとジャミル入学前(4章ネタバレ注意)
not監督生





私の家はアジーム家とは深い関わりがある。アジーム家の言うことは必ず従うように、という従者としての教えを両親にはきつく教えられてきた。と、言ったものの、私は兄妹の中では末っ子、それも女という男に比べればそこまで縛られることはないお気楽な立場だったので、屋敷ではのびのびと過ごしていた。当主さまの息子、カリム様とも同い年ということもあって、側にいることも多かったせいか仲良くなったし、兄や姉に比べれば私は自由だった。しかし、人間というものは我儘なようで、それよりも自由を求めた私は、勉学をしたいと両親に頼み込み、他国へ留学することが決まった。カリム様のことも嫌いじゃないし、いつかは絶対戻らなければならないということも理解していたが、せっかくこの世に生を受けたのだから、同い年の子どもたちが受けているものは私も受けたかったのである。カリム様にお伝えした時はびっくりしていたけど、なまえがやりたいようにやれ!と物凄く良い笑顔で言ってくれた。やはりこの人は底抜けに良い人だよなぁ、と思いながら歩いているところまでは良かった。

「なまえ」
「あ、ジャミル。」
「今日の仕事もう終わっただろ?この後付き合えよ。」
「え。」

カリム様が寝静まった後、部屋に戻ろうと廊下を歩いていたら、向かいからジャミルが現れた。彼は従者の中でも最有力のバイパー家の長男で、私の家からするととても立場が高い人なのだけれど、いかんせん物心つく前からの知り合いで、同い年の従者という肩書きは同じであるため、カリム様よりフランクに接することはできた。カリム様に対してもつい最近まではタメ口呼び捨てで接していたのだが、その光景を見た両親にこっぴどく叱られてからはカリム様に対しては敬語を使うように徹底している。ジャミルに対してもきっとそうなる日は近い。やはりこの国は、いや、この家か、どこかおかしい。そんなジャミルは、若いのに非常に優秀な従者で、常に冷静にカリム様を支え、カリム様の為ならなんだってやってのける人なのだが、私は彼のことがとても苦手であった。ジャミルはこうやって仕事終わりに私に声をかけては彼の自室へ引きずり込んでいく。マンカラをやったり、余ったフルーツを二人で食べたりするだけなのだが、たまに困ったことが起きるのである。彼に誘われてつい嫌そうな顔をした私を尻目に、彼は私の腕を引っ張った。ああ、意見を聞くつもりもないということは今日は少し不機嫌なようだ。ジャミルの自室まで着いた時、彼は後ろ手で鍵を閉め、ズンズンと私に近付いてきて、私をきつく抱きしめた。顔を私の肩に埋めている。表情は分からない。

「……もう嫌だ。」
「ジャミル、よしよし。」
「俺はいつまでこんなことをしていれば良い?いつになればみんな俺のことを認めてくれるんだ?今日だってカリムが能天気に俺のことをすごいすごいともてはやして、俺はお前がいる限り真の実力を認められることはないのに、」

もうこうなってしまえば、私はジャミルにされるがままで、何も喋ることはできない。ただ彼が言うことにうんうんって頷くだけなのである。しかしこうしないとジャミルは落ち着かないので、早くこの時間が終わって欲しい私は、静かに彼の話に耳を傾けた。バイパー家とアジーム家の繋がりは深い。私の家よりもずっとだ。その分ジャミルは縛られるものが多い。彼はとても優秀な魔法の使い手であることはなんとなく分かっていたが、それが真に認められることは、従者としてはいけないことなのであろう。私はお気楽な立場だったからあまり分からないけれど、ジャミルの苦悩は相当だと思う。しかし、私はカリム様のことは人間としてとても好きなので、ジャミルががカリム様の悪口を言うのはあまり好きではなかった。いつも冷静に振る舞っているのに、私の前で悪態をつくのが、なんとなく苦手だった。だからこの時間は早く終わって欲しい。彼の頭を撫でたら、抱きしめる力がさらに強くなった。痛い。

「……留学へ行くと聞いた。」
「ああ、うん、そう。」
「いつから。」
「次の秋から。」
「……嫌だ、行かないでくれ、なまえ。君が出て行ったら、俺はどうなるんだ。」
「ジャミルはそんなことで壊れる人じゃないよ。ジャミルは優秀だから、大丈夫。」
「……自分だけ自由になるつもりか。」
「……どうせ帰ってこないといけないから一緒だよ。ジャミルなら分かるでしょ。」

しばらく彼は私から離れなかった。


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それは本当に突然だった。カリム様とジャミルがナイトレイブンカレッジの入学生に選ばれたらしい。屋敷が一気に浮つき、一斉にみんなが入学の準備にあくせくしていた。私もカリム様の衣類をまとめるのを手伝った。物凄い量だけど、本当に使うのか?これ……。しかし、カリム様はそれこそロイヤルソードアカデミーの方が合っている気もするけれど、分からないもんだな。

「カリム様がいなくなったら、屋敷も寂しくなりますね。」
「まぁでもホリデーで帰って来られるみたいだから!あ、でも帰ってもなまえは留学でいないのか!なまえも寮暮らしなんだよな?気をつけろよ!」
「そうですね、もうすぐです。カリム様はジャミルと一緒だから安心ですね、良かった。」

ジャミルからしたら、嫌なのかもしれないけれど。でも少しでも屋敷から離れられるなら、ジャミルにとっても良いかもしれない。前から色々溜め込んでいる人だったけど、ここ最近はちょっとおかしかった。カリム様の荷物をまとめて詰め込む。本当にこんな量いる
のか?多すぎる。もう一つバッグを持ってきて小分けにしていれば、バタバタと私の両親が部屋になだれ込んできた。驚いていると、なまえ、当主様がお呼びだ、と言ってきた。当主様?あまり関わりがないのに、何故だろうか。なんだか嫌な予感がしながら、当主様の部屋へ向かった。

「喜べなまえ、お前もカリムと共にナイトレイブンカレッジへ向かえ。」
「わ、私がですか。」
「ああ。ジャミルも一緒に通うとはいえ、ジャミルも生徒になるから、常に一緒にいることは難しいと意見があってな。同い年くらいの従者を一人出しても良いと学園からも言われたのだ。」
「はぁ、しかし、私は留学が決まっているのですが……。」
「勉学がしたいのであろう?流石に生徒資格は出せないそうだが、図書館の利用等の許可ももらっているから、お前のやりたいことはできると思うぞ。」

頭がクラクラする。どうして当主様はこうも強引なのだろう。私はただ少しの期間の自由が欲しくて、自分のやりたいことがあったからわざわざ遠いところを選んで留学しようとしたというのに。両親は、私の意見も聞かずにありがとうございます、と頭を下げていた。結局は私個人としての意見は認められないということなのか。私が行かなければ、両親の立場がなくなるということは、十数年生きていてなんとなく理解はしていたので、仕方なく受け入れた。力なく頷く。

「四年間の短い期間だが、カリムのこと頼んだぞ。これで、意見を入れたジャミルも安心だろう。」
「……ジャミルが?」
「ああ。彼に意見を聞けば、お前が最適だと進言してくれてな。そこでお前に頼んだんだ。」

その後、当主様が何を言っているかはあまり聞こえなかった。当主様が離してくれた後、部屋を出れば、両親が私の肩を抱きしめてごめんなさい、と謝ってきた。仕方がないことだったから、私はもうあまり悲しくはなかったので、両親の手を握り、大丈夫だよ、と話してその場を離れた。私が一人で自由になろうとしたから罰が当たったんだろうか。そうぼんやり考えていたら、目の前に、あまり会いたくない人が現れた。

「ジャミル。」
「なまえ。」
「ナイトレイブンカレッジ、招待されたんだってね。おめでとう。」
「なまえ。」

彼はまた私を手を引いて、彼の自室に引きずり込まれた。扉を閉めた途端に抱きしめられる。またか。デジャブ。

「そんなんになるだったらやらないでよ。悪いって一ミリも思ってない癖に。」
「……俺を置いて行かないでくれ。」
「行けないんじゃん。どうしてくれんのよ、ほんと。」
「ご飯は毎日作るから。」
「いや私もやらなくちゃいけないじゃん。」
「基本的にカリムの世話は俺がやるし。ていうかお前は絶対やるな。見たくない。」
「ええ、私何のために行くのよ、意味ないじゃん。」
「屋敷を出て行くなんて、自分だけ自由になるなんて絶対許さない。」
「もうここまでされたら出て行く気力失せるわ。責任取ってよね。」

まさかジャミルが当主様にまでこんな真似をするとは思わなかった。魔法も使わず言葉巧みに自分よりうんと年上の大人を操ってしまうなんて怖すぎる。絶対逃げ切れる気がしない。私を抱き締める力がまた強くなった。苦しい。

「分かった。結婚しよう。」
「何て?」