×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
焼き付ける羨望




ああ、煩わしい。憎い。彼女に会うとそんな感情ばかり出てくる。それでも会う前に少しでもお洒落して、彼女に会えることを期待している自分が嫌いだ。こんなこと知りたくなんてなかったのに。

「影片くんのことが好きかもしれない。」

そう彼女に伝えられたのはひと月ほど前の話だった。普段お洒落もしない、無口ななまえちゃんは恋愛には程遠い人物だった。いつだって与えられた仕事をきちんとこなし、いつだって一線を引いてくれる、そんななまえちゃんと過ごすのは心地良かった。だから甘えていたのかもしれない。この子は、絶対にどこかへ行ってしまうことなんてないって。
そんな子にそう言われてしまった時、アタシは全ての動きが止まったかのような感覚がした。ーーこの子は今、何を言ったの? 信じられなかった。それでも、信じるしかなかった。なまえちゃんが、見たこともない表情をしていたから。恋する乙女、という安易な言葉でしか表現出来ないけれど、頬を桃色に染めてちょっと下を向く、そこには「女の子」のなまえちゃんがいた。そこでアタシは自分の思いを初めて自覚し、そして自分の愚かさに気づくしかなかった。

今日もなまえちゃんと遊ぶ約束をした。近くのカフェで一緒にお茶を飲んで、買い物をして。とても楽しい時間だけれど、今はこの時間が嫌いだった。最近はずっと、みかちゃんとはどうなのか、そのことばかりを聞いていた。みかちゃんのことを思って笑ったり、みかちゃんのせいで泣いたり。なまえちゃんの心の中を占めているのは完全に彼だった。以前、みかちゃんのことで悩んでいるなまえちゃんに、どうしてみかちゃんがいいの、他の人じゃ駄目なの、そう言いかけてやめた。聞いたところで彼への思いを簡単に消す子ではない子だと知っていた。それに、変わったとしても、アタシを選ぶことはないのだろう。
ー気軽にお姉ちゃんって呼んでね。
ああ、あの時の自分が恨めしい。


「あ、影片くんだ。」
「……あら本当ね。」

雑貨屋から出てきて二人で歩いていると、みかちゃんが彼のユニットのリーダーと一緒にいた。みかちゃんとは良い友人だけれど、何故今目の前に来てしまうのか、と嫌な気持ちが湧いてきてしまった。なまえちゃんと今一緒にいるのはアタシなのに。目の前にみかちゃんが来てしまうと、たちまちなまえちゃんはそっちに頭が行ってしまう。チラリ、見れば、アタシの一番嫌いな表情がそこにあった。ああ、アタシに対して絶対見せない顔。みかちゃんのことを思って見せる顔。

「……行ってきたら? 」
「え? 」
「もう、ぼーっと突っ立ってるだけじゃ駄目じゃない! こういう時にこそ積極的にいかないと! 」

そうなまえちゃんの背中を押してみかちゃんの元へと向かわせる。なまえちゃんはちょっと困ったように笑いながら、ありがとう、と行ってしまった。喉から行かないで、という言葉が出そうになるのをグッとこらえた。自分の心と体が全く釣り合っていない。気持ち悪い。アタシは今ちゃんと笑えているのかしら? みかちゃんとなまえちゃんが話しているのを眺めながら、フツリフツリと立つ嫌な気持ちを抑えた。仕方がないの、だってアタシは「お姉ちゃん」なのだから。