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雪村千鶴side
私は時々香耶さんに、お菓子や小間物を買いに行くのに連れ出されることがある。
それは、私が実は鬼だったとか、香耶さんの呪いのことだとか、いろんなことがわかっても、変わることの無いもののひとつ。
「千鶴ちゃん、私これ買う」
「金平糖ですか。高くないですか?」
「ふふん。それは愚問だね。私の血は…」
「いくら金になるからと言って、無駄遣いはだめですよ」
「…もう。君までそんなこと言うの?」
香耶さんは困ったように眉尻を下げた。
新選組の幹部の皆さんは、彼女にできるだけお金を使わせないようにしている。
だって、そのお金は、香耶さんが自分を傷つけて得るお金だから。
香耶さんにしてみれば、いままでこれで生活してきたんだから、当たり前のことかもしれないけど…
意気揚々と先を行く香耶さんのあとについてお店に入ろうとしたけど、私はふと足を止めた。
そういえば、昨日もこのあたりで……
『あなた、勇気があるのね。浪士相手に立ち向かうなんて普通できないわ』
子供を蹴飛ばそうとする浪士を、怒鳴りつける女の子がいた。
私は彼女を庇うようにして、浪士の前に立ちふさがった。
それが、私とお千ちゃんの出会いだった。
「千鶴ちゃん、これ。君のぶん」
「え?」
いつのまにかお店から出てきた香耶さんに、綺麗な紙の小箱を手渡される。
「金平糖……これ、私にくれるんですか?」
「君には日ごろからお世話になりっぱなしだからね。せめてものお礼に」
「そんな……」
お世話になってるのはむしろ私のほうなのに。
たくさん助けてくれて……いっぱい元気をくれて。
「それ、あの子には見つからないようにしてね」
「あの子……?」
「すねちゃうからさ」
あの子って、まさか……。
香耶さんはもうひとつ、私にくれたものより一回り小さな箱を持っていた。
「特別な人にあげる、特別なこんぺいとうなんだ」
太陽みたいな笑顔で、香耶さんは言った。
「……私、これ、大切に食べます! もちろん沖田さんには内緒で。ありがとうございます!」
「ふふ、うん」
あの子……沖田さんにあげる小箱を眺める香耶さんの表情は、どんな花魁さんにだって負けないほど、綺麗なほほえみだった。
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