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月神香耶side



男達の熱気がこもる道場。
私も庭の隅で素振りでもしようと思って、木刀を借りにそこへ足を踏み入れた。
目立つ私にその場にいた全員が注目する。
隊士に稽古をつけていた一君が、私に気づいて歩み寄った。

「香耶、珍しいな。早朝にあんたが稽古とは」

「ここひと月ほど鍛錬を怠けていたからね」

「あんたの病は根治しがたいものだと聞いている。あまり無理をするな」

「ありがとう一君。私も徐々に慣らしていこうと思ってるよ」

一君は私に木刀を渡してくれた。
そこに。

「ぅわあ!?」

いきなり背中に何かが覆いかぶさってきて、木刀を取り落とした。

「香耶さ〜ん、試合でもするの?」

「重っ……そーじ君!」

気配も無く現れた総司君は、私を背中から抱きこんで体重をかけてくる。

「総司、離してやれ」

「平気だよ。ちゃんと加減してるから」

「いや、そういう問題じゃ…」

私は恐る恐る周りを見渡した。
他の隊士たちは見て見ぬふりをしているけれど、意識がこちらに集中している。

「香耶さんって衆目の前でこういうことされるのが苦手なんだよね」

基本的にセクハラは嫌い。
て言うかなんでこいつは恥ずかしくないの?

「まさかこれが……」

「そ。お、し、お、き♪」


いやあああ!!


総司君の極上の笑顔が今は心底恐ろしい。

「今日一日香耶さんは僕の言いなりだから」

「……そうなのか」

「納得しないで!」

総司君は私が床に落とした木刀を拾い上げ、私の手を引いて道場の入り口に向かう。

「一君、一君助けて!」

「僕といるときにほかの男の名前を呼ばないでよ」

「……すまん香耶。俺には止められん」

「ああああ」

そうして一君と隊士たちの気の毒そうな視線を浴びながら、半ば引きずられるように道場を後にした。




ところ変わって、境内で剣術の稽古に精を出す隊士達。
私と総司君は彼らに見せ付けるように、文字通り手取り足取りしながら型のおさらいをしていた。

「だあああおまえらなんなんだ! あてつけか!!」

「新八君にあてつけて何の意味があるって言うのさ」

かつて無いほどの仏頂面で新八君をねめつけると、その迫力に彼は冷や汗を浮かばせた。

「うっわ機嫌最悪っ! 総司、こいつぜんぜん嬉しそうじゃねえぞ」

「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。これが香耶さんの平常時」

「なわけがあるか!」




広間でみんなが集まっての朝食の席では。

「そーじクン、あーん」

「ん、おいし」

定番の“あーん”で総司君を餌付け。
それを見て、平助君たちはひそひそと囁きあう。

「……な、なぁ、香耶の奴、殺気立ってて怖えよ」

「あれって……お二人に何かあったんでしょうか…」

「総司はお仕置きがどうとか言っていたが」

「お仕置きねぇ……」

左之助君は、上座で黙々と食事を進める歳三君に、ちらりと視線をやった。


「香耶さん、ご飯がついてるよ」

「ぎゃあああ!」

私の口元についていたらしいご飯粒を、総司君がこれ見よがしに舐め取ると。


「も、もういいかげん…」

「いい加減にしろてめえら!!!」

私より先に歳三君がキレたのだった。

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