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沖田総司side
香耶さんが、長くない?
でも彼女は……
「不老不死のはずだと、言いたいんだろう? これは昔、彼女を診ていた綱道さんから聞いた話なんだが。月神君の身体の時間は、止まっているんじゃなく、繰り返しているらしい」
「そういえば、香耶さんも以前言ってました。香耶さんの身体は再生を繰り返してるって」
たしかに、言っていた。
肉体が再生を繰り返すから、寿命が無いんだって。
「こうも言ってなかったか? 病でなら死ぬことがある、と」
松本先生の言葉にうなずく。
言っていた。香耶さんだって、風邪くらい引くって。実際、つい最近まで引いてたし。
「つまり、香耶君は何か重大な病にかかっているということか?」
「うむ、正確に言うなら、月神君は、不老不死になる以前から、ある病を患っていて、
今は一定期間で身体の時が巻き戻るように、病の進行も巻き戻って繰り返しているらしい、ということだ。……綱道さんの考察によればな」
「うん? つまりどういうことだ?」
「要するに、香耶さんは永遠に死なないけれど、永遠に病をかかえたまま生きていかなければならない、ってことですよね」
そう僕が言えば松本先生は肯定した。
「そうだな。しかも、私が言うのもなんだが、医者がさじを投げるほどの大病だと考えられる」
「しかし香耶君は毎日元気いっぱいだぞ? 屯所中に出没しては誰かしらに叱られているようだが」
近藤さんの言葉に思わず苦笑する。
香耶さんの辞書には貞淑と従順って文字が無いらしいからね。
「私も、月神君を直接診察したことがあるわけではないからなあ。ただ、体力が落ちているときには、軽い病にかかっただけで命取りになることもあるんだ。詳しいことは、彼女と話をした後で明らかになるだろう。
……まずは、逃げ回る彼女を捕まえるのが先決だな」
「逃げ回る……?」
「聞いたこと無いかい? 綱道さんの話では、月神君は大の医者嫌いだったそうだ」
それって医者嫌いっていうより、単に綱道さんが嫌だっただけなんじゃ……
「とにかく、私は明日もここに来るから、それまでに月神君に診察を受けるよう説得しておいてくれないか」
「は、はい…」
「わかりました」
僕は病にかかると言われていた胸に手を当てる。
こうなったら香耶さんを騙してでも、診察を受けてもらわなきゃ。
この後、隊士の実に三分の一が病にかかっていたことが発覚する。
その日は、隊士全員が屯所の大掃除に駆り出されることになるのだった。
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