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土方歳三side



鼻が触れそうなほど、香耶と接近する。

香耶は目をまん丸に見開いて、俺の目を見つめ返していた。
この腕の中の温かい物体は、俺の腹の奥底から沸きあがってくるどす黒い嫉妬の感情を和らげてくれる。

ああ、やっぱりこいつはすげえな。
俺の心を癒してくれるのも、逆に惨めな気持ちにさせるのも、こいつにしかできねえ。


「……俺だって教えてやる」

「何を教えてくれるのかな」

「これだ」

香耶の小柄な身体を畳に押し倒し、飢えた獣のように乱暴に衿を掴む。
彼女は暫らく、何が起こったのかわからない、といった表情をしてたが、状況を理解すると暴れだした。
俺の身体の下から逃れようと振り回す腕を、ひとまとめにして香耶の頭の上で拘束する。

「とっ、歳三君!?」

逃げられないことを察した香耶は、身体をこわばらせて顔色を変えた。
そんな彼女の顔を見て、俺はにやりと笑みを浮かべて…



「ひゃはぁ!?」

ねろりと鼻の頭をなめてやった。



「と、とっ…としっ」

「鼻にまつ毛がついてたぞ」

いけしゃあしゃあと言って、俺は身体を起こした。
ざざーっと畳の上を後ずさりしながら鼻を押さえる香耶を見て、俺は笑いが止まらなくなった。

「……口で言ってよ! くちで!!」

「くっくっ…だから口で取ってやっただろ」

「もう! ばか! 変態!」

可愛いやつ。


この程度のいたずらくらい、いいだろう。
俺もいろいろ我慢してるからな。


「総司に言っとけ。手放してなんかやらねえ、ってな」

「……? ああ!
そうだよね、総司君は一番組組長だもの。例え何かあったしても、彼はずっと新選組の一員だよね……」

香耶は少し寂しげに、けれど艶やかに笑った。

だからその顔がだめなんだよ。総司のことが絡んだときにだけ、そんな表情するから。
あまりにも綺麗すぎて。
見ていられねえ。



まったく、大馬鹿野郎だな。
総司にはそう簡単に離脱してもらっちゃ困る。今更わざわざそんなこと言わねえよ。
手放さねえってのは、てめえのことだ。香耶。
新選組から、俺の手の届くところから、逃がしてなんかやらねえぞ。

軽やかな足取りで副長室を後にする香耶の後姿を、俺はいつまでも見送っっていた。
胸を突き刺すような痛みには、気づかないふりをして。

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