79

月神香耶side



千鶴ちゃんが眠ったのを確認して、私は部屋を出た。
人の気配のない屋根の上へと登って、身体を伸ばして寝転がる。

夜空に瞬く星を見つめて微動だにせずにいたら。
その視界をぬっと遮るものがあった。


「あ、起きてた」

「総司君……」


なんだってこの子は……こう気配を消すのが上手いんだ。足音どころか空気の流れさえ感じなかったよ。
総司君は私の隣に腰を下ろす。

「ひとつ……聞き忘れたことがあってさ」

私は身体を半分起こした。

「うん、何?」

「香耶さん、あいつらに何もされなかった?」

「何も……何もって、」

「つまりこういうこと」

と、総司君はいつかみたいに私の上に覆いかぶさってきた。
互いの息がかかるくらいの至近距離。
私が無意識に手を振り上げると、総司君はその手をがっちり掴んだ。
足を動かせないように、私の身体の上に馬乗りになって動きを封じる。

「今度引っ掻いたら、こんないたずら猫は閉じ込めちゃおっかな。僕の部屋に」

「怖いよ総司君。目が本気」

「さあ正直に答えて」

「されてないされてない」

「嘘だね」

「殺生な」


なんで総司君は嘘がわかるんだろう。すごい観察眼だな。


「千景君に薬を……」

「ああ、風邪薬を飲んだんだよね」

「…口移しで」

「……へぇ、そう」


あ、怒った?


「他には?」

「思い当たるのはそれくらいかな」

「わかった。じゃあもう黙って」


総司君は空いてる手で私の頬を優しくなでる。
私は、誘われるように目を閉じた。


予想に反して、軽く、羽のように触れるだけの口付けで、離れる。
そして、彼は、私の首筋に顔を埋めるみたいに頭を伏せた。


「……強くなりたいな」

「総司君…」

その声が、なんだか、らしくなく弱弱しくて。
私は、彼のふわふわの猫毛を優しくなでた。

「香耶さんが、もう独りきりにならなくていいように」

「……まさか、さっきの話、」

聞いてたのか……。
さっき千鶴ちゃんにした話。



「香耶さん、つらいときは僕を呼んでよ。一番最初に、僕に手を延ばして」

まったく、君ってやつは。

「そしたら、僕は……っ」

私は顔を上げた総司君の首に腕を回す。私から、鼻と鼻がくっつくくらい顔を近づけて。

「香耶……さん?」

「総司君、私は君の恋人だよ。心配しなくても忘れてない。だから、ちゃんとキスして」

「きす?」

「こうすること」

私は薄く笑って、総司君の唇に口付けた。

「君とこうするの、なんだか、嬉しい」

「香耶さん」

総司君は、私の言葉に目を丸くする。
それから切なげに微笑して、もう一度私と深く接吻した。

「それ、僕とだけ、だよね」

「うん」

「もっとたくさん、キス、していい?」

「うん」


何度も、何度も唇を重ねて。
あぁ、胸が、熱い。


「僕のこと、好き?」

「……うん」

「……香耶さん」

満天の星空の下で。
総司君は、微かに震える手で、私を力強く抱きしめた。

「ありがとう……」


総司くん。

私も、だよ。

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