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雪村千鶴side



いろいろなことを聞かされて、頭の中が混乱している。


二条城の警護は無事に終わり、隊士の皆さんが帰ってきた。
その後、主だった隊士が集められて、話し合いが始まった。

二条城に現れた、風間千景、天霧九寿、不知火匡。
彼らは、反幕府派の薩摩や長州に加担している。
そして私を同胞と呼び、私の姓や小太刀について言っていた。


私は……雪村千鶴。
父様と、小さいころに亡くなった母様の娘で。
どこにでもいるような、普通の……


普通の娘、だったはずなのに。


私は小太刀を握り締めた。
信じていたものが、少しずつ壊れていく。



その夜。
私が布団の中で悶々と考えにふけっていると。

「千鶴ちゃん」

香耶さんが、心地良い衣擦れの音を立てながら、私の布団の横に、身体を横たえる。

「香耶さん…そんなところで寝ると、また風邪を引いてしまいます」

「平気だよ。最近暑いくらいだしさ」

私が香耶さんに手を差し出すと、彼女はその手をとって握った。

「眠れないの?」

「……はい。徹夜もして、身体はとっても疲れてるはずなのに」

「そっか。じゃあ、話をしよう」

香耶さんは、ふわりと優しく笑う。

空いた手でそっと私の目を覆う。
私は促されるまま目を閉じた。



「私はね、時渡りで、全然別の世界から、この世界にやってきたんだよ。
はじめは右も左もわからなくて。とっても困ったんだ。お金では解決できない問題がいっぱいあって。全部諦めて、誰にも関わらないで、ひっそり暮らそうか、なんて思ったこともあったんだよ」

「香耶さんが……?」

「普段から悩みなんかなさそうに見えるでしょ」

「そ、そんなことは…」

「いいのいいの。
で、そんな私を助けてくれたのが、君の実のご両親と、その一族のみんなだったんだ。彼らは、私の特異体質を知っても、差別も利用もすることなく、温かく触れてくれた。
誰かの体温。優しい声。とんと肩を叩く手。くしゃくしゃの笑顔。物理的ではない豊かさが、あそこにはあったんだ。あの里は、私の、故郷だった」

香耶さんは、私の身体を布団の上から、とんとんと手で叩く。それが、私を酷く安心させてくれる。



「私は誰も憎まない。憎むとすれば、ただ自分だけ」

話を聞かなきゃと思うのに。彼女の穏やかな声音に誘われるように、私の意識は眠りの淵へと吸い込まれていく。



「だから私は、救わなければならなかった。この世界に生きる私を、見失わないように」

その声は、淡々として。

「その義憤も、怨嗟も、絶望も。喰らい尽くして、力にして。
そうやってしか生きられない、本当の化け物に、ならないように。……ならせないために」

悲しい響きを含んでいた。



「もう、誰も、死なせない」

その声を最後に、私の意識は途切れた。

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