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月神香耶side



男達の会話をぼそぼそと聞きながら、私は目を覚ました。

「なるほど。要注意なのは沖田と」

『あと土方さんでしょうかね』

何の話だろう。
私はふすまからもれる夕日が眩しくて、目が開けられない。

『香耶さんって、そういうことに無頓着ですからねぇ。でもそのかわり、一度自覚すると、とことんのめりこむタイプなんです』

え、私の話?

『まぁあんまり警戒しすぎもよくないと思いますが。人間不信になっちゃいますし』

「俺に指図するなよ、ゼロ。煤の分際で」

『ひどっ! 僕は力の使いすぎでこんな姿になってるだけですぅ!!』

私がごそごそと目を擦って寝返りを打つと、ふたりが一斉にこちらを見た。

「起きたのか」

「ん…かおるくん……?」

「まったく手のかかる。年増が無茶するな」

「……年増言うな。この餓鬼」


そこにいたのは、十年以上ぶりに会う、小生意気な少年、薫君だった。


「だってお前、初めて会ったときに歳、」

「ぎゃああああ!! それ以上はだめえええ!!!」

私は布団から飛び起きて、薫君に飛びかかる。
けれどひょいと避けられて、私は畳に突っ伏した。

「別に、誰も聞いてないだろ」

「誰もいなくてもだめ。私の歳は生涯口にしないで」

そう、これが薫君をみんなに会わせたくなかった、その理由。
薫君、私の年齢を覚えてるんだよね……

「そこまで命令される筋合いはないね」

「それでも!」

『まあまあ香耶さん。そうだ、体調、よくなりました?』

ゼロの執り成しに、私は初めて、身体の熱もだるさも治まっていることに気づいた。

「あ、身体はすごく楽。すごいな、鬼の風邪薬」

「ふん、鬼の薬は凡そ人間には強すぎるものなんだよ。そんなことより、あそこから助けてやった礼はないのか」

「は、え?」

私はようやく周りを見渡した。



「ここ、私の部屋……」

私たちがいるのは、新選組の屯所の、私が千鶴ちゃんと一緒に使ってる部屋だった。



「連れて帰ってくれたんだ……ありがとう」

みんなが助けに来てくれることになってたはずだけど……うん、まあこれはこれで、結果おーらい、とゆうやつだよね。

「……香耶さん」

薫君は急に声のトーンを落とす。
眉尻を下げ、上目遣いで私をうかがう彼の様子は、千鶴ちゃんを見てるみたいで。

「どうしたの」

「香耶さん、あの時……あの後どうなったの?」

「あの時?」

ずいぶん深刻そうな表情をするものだから、私は思わず背筋を伸ばした。


あの時というと…まさか、


『まさか、雪村の里が襲われたときのことでは…』

ゼロが私の心中を代弁した。
私はゼロを見て、そして薫君の顔を見る。
薫君は、神妙な顔で頷いた。



それは、十余年前の話になる。
私は、燃え盛る村の中、逃げ遅れた薫君を捜して走った。

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