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沖田総司side



しかし。

「小癪なぁっ!!」

風間は刀を振り下ろしざま鴨居を破壊した。



「なん…!?」

「うわっ!」

僕達は左右に跳んで風間の刃をかわす。
そして距離をとって背中合わせになった。

「へぇ、でたらめな力だなぁ」

「ったく、二人がかりでこれか」

「土方さんが足引っ張ってますからねー」

「総司てめえふざけるな! 表に出ろ!!」

「貴様ら真面目にやれ」

敵をそっちのけで口論を始めた僕たちを、風間が半眼でにらんだ。



と、そこに。

「くすくす…」

風間でも、僕たちでもない、第三者の笑い声が響き渡る。



「のんきによそ見してると、俺が足元すくっちゃうよ」

僕らが破壊した、障子の外に、そいつはいた。
全員が声の主に注目し、そして驚愕した。

小柄で黒い洋装の男。
……千鶴ちゃんにそっくりな容貌。
そしてその手に抱きかかえられた、香耶さんの、姿。



一先に状況を理解したのは、苦虫を噛み潰したような顔をした風間だった。

「南雲の鬼がここで何をしている」

なぐも……?

「まさか、南雲、薫……?」

「南雲薫か。報告では女じゃなかったのか?」

僕の呟きに、南雲と面識の無い土方さんも思い出したらしい。
……女装が趣味の男だったってことかな。

「俺は彼女を助けに来たんだよ」

南雲薫はそう答えて、香耶さんを抱く腕に力をこめた。

「風間、香耶さんに何か盛った? いくら風邪気とはいえこの騒ぎで起きないのはおかしい」

「否定はしない。風邪薬をやった」

香耶さんは穏やかな寝息を立てている。身体は楽になったみたいだ。
それだけは、よかった。



「土方さん、沖田さん!」

そこに、息を切らせた千鶴ちゃんが駆け込んできて。

「斎藤さんたちが天霧さんと戦ってるときに別の人たちの邪魔が入って、裏庭は大混乱です!」

「ちっ、あっちもか」

千鶴ちゃんは、香耶さんを抱えた南雲薫を見て、眉をひそめた。

「か、薫さん……?」

「千鶴……お前も鬼の自覚があるのなら、一緒に来い」

「薫さんも鬼…なんですか?」

「俺とお前は、血を分けた双子の兄妹なんだから」

「ふた、ご…」

千鶴ちゃんは驚きに目を見開いた。

「俺たちの生家が倒幕の誘いを断って人間に滅ぼされた。お前は綱道さんに連れ出され、離れ離れになった俺は、香耶さんに命を救われたんだ。
彼女が危ないのなら、俺は助けなければならない、だろ」

「……っ!」

薫の言葉を茫然と聞いた彼女は、大事に持ったままの“狂桜”をぎゅっと握り締める。

「で、でもどこに連れて行くんですか!? 香耶さんは、新選組でやることがあるって…」

「そうだね。せっかくだけど、香耶さんを返してくれるかな」

僕たちがそう言うと、しかし薫は瞼を伏せて、にやりと口角を上げる。


「嫌だと、言ったらどうする?」


そして、奴は僕たちに背を向けた。

「待ちやがれ!」

追いかけようとする僕達の行く手を、数人の刺客が阻む。風間がそれを斬り捨てながら舌打ちした。

「ちっ、南雲の手下か」

…こいつら全員鬼って事か。

「千鶴、お前とはまた別の機会にじっくり話をしよう」

「待ってください薫さん! 香耶さん、香耶さんっ!」

「南雲薫──!!」

南雲薫は、香耶さんを連れて、京の町に姿を消したのだった。

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