僕がここに来て一番最初に受けた命令は、食事に関することだった。


「松本さんの話じゃ、君は食が細くて大酒のみだそうだね。
そんなもん病気になるに決まってるわ!」

どん、と布団の上に置かれたのは、少ない粥の入った椀。

「………これは?」

「これは鶏がらでとった出汁で作った卵雑炊。ねぎ抜き」

「へぇ」

卵って高級品じゃなかったっけ。

「君には今日から私の指示に従ってもらうからね。まずは一日三食出されたものを全部食べること」

「三食?」

「ああ、この世界じゃ一日二食なんだったか。でもこの家じゃあ私が法律です。治りたかったら文句言わず食え」

ずいぶん横暴だなぁ。それに、

「『この世界』ね……わかったからそんなに殺気立つのやめてくれないかな」

「殺気なんて出してませんー」

「あれ、食べさせてくれるんじゃないの?」

「阿呆。私もここで一緒に食うんだよ。甘えんな」

なるほど。




「……誰かと食事するなんて久しぶりだな」

ぽつりと呟いた僕の言葉に、香耶さんはぴくりと反応した。

「私もだ」

そう言って、困ったように微笑む顔が、とても綺麗だった。





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