一
沖田総司side
僕は労咳で新選組を離れ、松本先生が用意してくれた隠れ家で療養することになった。
僕の身体じゃあもう刀は握れなくて。
近藤さんの役に立てない僕なんて、何の価値もないじゃないか。
さびしくひとり、布団の上で死ぬのを待つ。
こんな最期を迎えることになるなんて。
「沖田君、ここにはもう一人、君と同じ患者がいるんだ」
「……そうですか」
松本先生の話では、隠れ家には僕と同じ患者………労咳を患ってるひとがいるらしい。
このときは、僕に何の興味もわかなかった。
知らない人との共同生活。至極めんどくさいような気さえしてた。
でも、この出会いは、僕を大きく変えることになる。
「あれ、ちょっと来るの早くない?」
僕達が駕籠で隠れ家に着くと、妙齢の女性がひとり、玄関の掃き掃除をしていた。
「すまんな。こちらが沖田君だよろしく頼む」
「偉そうに言うけど松本さん、井森屋のお団子はどうしたのさ。アレが無いとこの家の敷居はまたげないよ」
「あ、いや、すまない。いろいろあってすっかり忘れていた」
「ふぅん、まあいいや。代わりに総司君を食っちゃえばいいんだからね」
「え!?」
いきなり話を振られて、僕は瞬いた。
「あははは、冗談です。私はこの家に住む月神香耶。君の話は聞いてるよ」
「……そう」
べつに悪い気はしなかったけど。このひとすっごい美人だし。
「私は仕事があるからもう行くが、無理をしてはいかんぞ、香耶君。君も労咳なんだからな」
「わかってまーす。じゃあね〜」
すこし驚いた。
だって、すごく嬉しそうに笑うひとだったから。
それに、あんまりやつれてない。今の僕より、はるかに健康そうだ。
「君が労咳って……本当?」
「うん。君よりは闘病生活長い自信があるよ。だって今年でもう十年目だもの。でも君のほうが死相が出てるね。
あ、大丈夫。ここにいる間、私に従ってもらえれば、私くらいには元気にしてあげる」
「ふぅん。すごい自身だね。嘘だったら斬っちゃうよ」
「あはは! だったら言うこと聞きなさいね」
あまりに楽しそうに笑うから、すこし信じてもいいかなと思ったんだ。
だって、その笑顔に偽りはなさそうだったから。
もう一度刀を握って、戦場に立つことができるなら、僕は何でもしてやろう。
それまでの間は、このひとに付き合ってやってもいいか。
「僕は沖田総司。よろしくね。香耶さん?」
「うん、よろしく総司君」
「もう少し元気になったら、僕が君を食っちゃっていい?」
「あははは、返り討ちにしてやるわ」
綺麗に笑う彼女に、僕は少しだけ興味を持った。
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