沖田総司side



僕は労咳で新選組を離れ、松本先生が用意してくれた隠れ家で療養することになった。

僕の身体じゃあもう刀は握れなくて。
近藤さんの役に立てない僕なんて、何の価値もないじゃないか。

さびしくひとり、布団の上で死ぬのを待つ。
こんな最期を迎えることになるなんて。



「沖田君、ここにはもう一人、君と同じ患者がいるんだ」

「……そうですか」

松本先生の話では、隠れ家には僕と同じ患者………労咳を患ってるひとがいるらしい。

このときは、僕に何の興味もわかなかった。
知らない人との共同生活。至極めんどくさいような気さえしてた。

でも、この出会いは、僕を大きく変えることになる。





「あれ、ちょっと来るの早くない?」

僕達が駕籠で隠れ家に着くと、妙齢の女性がひとり、玄関の掃き掃除をしていた。

「すまんな。こちらが沖田君だよろしく頼む」

「偉そうに言うけど松本さん、井森屋のお団子はどうしたのさ。アレが無いとこの家の敷居はまたげないよ」

「あ、いや、すまない。いろいろあってすっかり忘れていた」

「ふぅん、まあいいや。代わりに総司君を食っちゃえばいいんだからね」

「え!?」

いきなり話を振られて、僕は瞬いた。

「あははは、冗談です。私はこの家に住む月神香耶。君の話は聞いてるよ」

「……そう」

べつに悪い気はしなかったけど。このひとすっごい美人だし。

「私は仕事があるからもう行くが、無理をしてはいかんぞ、香耶君。君も労咳なんだからな」

「わかってまーす。じゃあね〜」

すこし驚いた。
だって、すごく嬉しそうに笑うひとだったから。
それに、あんまりやつれてない。今の僕より、はるかに健康そうだ。



「君が労咳って……本当?」

「うん。君よりは闘病生活長い自信があるよ。だって今年でもう十年目だもの。でも君のほうが死相が出てるね。
あ、大丈夫。ここにいる間、私に従ってもらえれば、私くらいには元気にしてあげる」

「ふぅん。すごい自身だね。嘘だったら斬っちゃうよ」

「あはは! だったら言うこと聞きなさいね」

あまりに楽しそうに笑うから、すこし信じてもいいかなと思ったんだ。
だって、その笑顔に偽りはなさそうだったから。

もう一度刀を握って、戦場に立つことができるなら、僕は何でもしてやろう。
それまでの間は、このひとに付き合ってやってもいいか。


「僕は沖田総司。よろしくね。香耶さん?」

「うん、よろしく総司君」

「もう少し元気になったら、僕が君を食っちゃっていい?」

「あははは、返り討ちにしてやるわ」

綺麗に笑う彼女に、僕は少しだけ興味を持った。

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