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雪村千鶴side



はっと目が覚めた。
なんだか怖い夢を見ていた気がする。

昨日、あんなことがあったせいだろうか。
汗の浮かぶ額をぬぐいながら、布団から起き上がる。
まだ夜は明け切ってない。


「……! 香耶さん…!?」

隣の布団には香耶さんがいなかった。
覚醒しきってない身体に鞭打って、寝巻きのまま部屋から飛び出す。

部屋の前の庭に、香耶さんの刀が落ちていることには、すぐに気付くことができた。
私は庭に下りて、そのずしりと重い刀を持ち上げる。

大事な刀を、こんなところに落としていくなんて…
きっとただ事じゃない……!

そのとき。



「風間の仕業です」

「えっ!?」

いつの間に!?
音もなく。私のすぐ後ろに、天霧さんが立っていて。私は驚いて振り返った。

「風間にも困ったものです。頭領の立場を無視し、人の女性を求めるなど」

「…で、では香耶さんは風間さんにかどわかされて……!?」

「ええ」

天霧さんがこちらに視線をやると、私の背筋がすっと冷えた。

「天霧さんは、なぜ…?」

「香耶殿をお助けするようにと、とある尊い血筋のお方から命を受けていますので」

尊い……そうか、香耶さんなら、まだ他に、偉い人や鬼の知り合いがいたって不思議じゃない。
味方になってくれる鬼だって、いるかもしれないんだ。



「ですが私は薩摩や風間を裏切ることはできません。ですから新選組の救出活動にも私が手を貸すことはありません。
この先、新選組が自分達の力のみで香耶殿を救い出すことができなければ、貴方がたに香耶殿を守る資格無しとみなし、風間の命令に従って、彼女も、そして貴女も連れ去ることになるでしょう」

「そんな……!」

「新選組に伝えてください。
香耶殿は預かっています。必ず取り返しに来なさい、と」

「……っ、はい!」

私は香耶さんの“狂桜”を、ぎゅっと握り締める。
香耶さん、必ず助けますから、無事でいてください…!!



私は一旦、屯所待機の平助君に事の次第を報告し、みんなに助けを求めるために屯所を飛び出した。
西本願寺から二条城へ。京の市中をまっすぐ北へ。
新選組のところへ全力で駆け抜けるのだった。

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