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雪村千鶴side



私は新選組の将軍警護について行くことになった。

「総司、その顔はどうした」

「これ? 風邪気味の猫に引っ掻かれて」

風邪気味の猫って……沖田さん、またあのひとに何かやったんですね。
今頃、部屋の布団に丸まって寝ているだろう彼女の姿を思い浮かべて、私は苦笑をこぼしたのだった。



宵闇の中。
二条城では伝令として走り回って、私はへとへとになっていた。
三条蹴上から二条城まで将軍の護衛、引き続いて二条城の警備を任されて一刻あまり。
近藤さんや永倉さん、井上さんたちは、今頃 偉い方々に挨拶をしている頃だろうか。

「……私も、お勤め頑張らなくちゃ」

しかし、人の気配が途切れたところで、それは現れた。



「──!!」

この、感覚。
……殺気。



「あなたたちは……!?」

「……気付いたか。さほど鈍いというわけでもないようだな」

人目の届かない城の陰、月光の手も触れるぎりぎりの縁。
そこに、彼らはたたずんでいた。

風間千景。

天霧久寿。

不知火匡。

彼らは薩摩や長州とかかわりがあるらしい。
間違っても、将軍の宿舎であるこの場所に、気軽にいていい存在じゃないはずなのに……!



「な、なんで……ここにいるんですか……!?」

「あ? なんで、ってのが方法を言ってんなら、答えは簡単だ。……俺ら鬼の一族には、人が作る障害なんざ意味を成さねぇんだよ」

「そう。私たちはある目的のためにここに来た。君を探していたのです。雪村千鶴」

「……い、言ってる意味がよくわかりません。鬼とか、私を探してとか、……私をからかってるんですかっ!」

「鬼を知らぬ? 本気でそんなことを言っているのか。我が同胞ともあろう者が。……香耶は何も教えてないのか」


え……? どうしてここで彼女の名前が……
やっぱり香耶さんは、何か知ってるんだ…


「君は、すぐに怪我が治りませんか?」

「っ!!」

天霧さんの問いに身体が緊張する。

……そんなこと、答えちゃいけない。

四条大橋で刺されて膝をつく彼女の姿が頭をよぎった。
彼女の存在だけが、得体の知れない私を、ここにつなぎとめてくれるような気がして。


「そんなことは……」

「あぁ? なんなら、血ぃぶちまけて証明したほうが早ぇか?」

「……よせ不知火。否定しようが肯定しようが、どの道、俺たちの行動は変わらん」

彼は私の小太刀に視線をやった。

「……多くは語らん。鬼を示す姓と、東の鬼の小太刀……それのみで、証拠として充分に過ぎる」

……姓? 雪村の姓が……



(この森、まさか、雪村の里…)

香耶さんの言葉が脳裏によみがえる。



それに、小太刀のことも…

(その、小通連、どうやって手に入れた?)



私は…何なの……?



「……言っておくが、お前を連れていくのに、同意など必要としていない。女鬼は貴重だ。共に来い…」

闇から、手が、風間さんの手が伸びてくる──!


その瞬間。


「そんなこと、香耶さんは許さないと思うよ」

沖田さんの声とともに、白刃が闇を切り裂いた。

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