54

月神香耶side




『貴方を助ける方法ならありますよ』

それは、まさに悪魔のささやきだった。




会議が終わったはずの広間に、にぎやかな人の気配がしている。
私が中をのぞくとそこでは、総司君とゼロが向かい合って座り何かしていて、新八君や左之助君が興味深そうにそれを眺めていた。

「何やってるの? 君たち」

総司君とゼロは、なぜかふたりで大貧民をやっているようだ。
尋ねるとちょうどゲームは佳境で、総司君が革命を起こしたところでゼロが『なんてことするんですか!』と膝をついた。

「とらんぷで遊んでるんだよ」

「うん……見たらわかったよ」

て言うか なぜ大貧民を選んだ。二人で遊ぶには向かないだろ。

「俺たちは見てるだけだぜ!」

「なんか面白そうなことしてると思ってよ」

新八君たちが、香耶も来いよ、と誘うので、広間に足を踏み入れ彼らの輪の中に入る。
そして私は嘆息して、ゼロに視線を向けた。

「ゼロ、君最近勝手に出るようになったよね」

『あああ、すみません香耶さん! だからってまた閉じ込めたりしないでくださいよぉ!』

まだ何も言ってないけど。
でもわかった。
ゼロはずっと療養の名目で閉じ込めてたから、その反動で出ずっぱりになってるんだね。

「君はこの世界に存在するにはとても不安定な身体なんだよ? いつ消滅してもおかしくないところまできている」

心配性と言う無かれ。実際、今こうして遊んでいるだけでも負担がかかっているはずなのに。
私たちの話を聞いて、新八君が首をかしげた。

「でもゼロって幽霊みたいなもんなんだろ? 人の身体に取り憑いたりできねえのかよ」

『そんなことができるなら僕だって最初からしていますよ。幽霊というのは例え話です』

まあ幽霊に最初に例えたのは私なんだけれども。

「でもね、ほどほどにしておかないと、こんどは伊東さんの前にひっぱりだしてやるからね」

『そ、それだけは許してください!』

私の言葉に顔色を変えるゼロ。
彼は、新しく新選組に入った伊東甲子太郎という人物が大の苦手だった。
たまたま屯所の廊下を出歩いていたら、伊東さんと鉢合わせしたのが縁でいたく気に入られ、やたらめったら追っかけられる羽目になったらしい。

あれ、伊東さんて男色家じゃないよね?
実際フェニミストっぽいし、それに奥さんがいらっしゃるはずだったけど…ま、いいか。深く考えるのはよそう。

「伊東さんか……」

伊東さんの話題が出ると、みんなが渋い顔をしだした。
今朝の会議じゃやっちゃってくれたからね。あの人。





それは、今日の朝食後でのことだった。

『剣客としては生きていけずとも、お気になさることはありませんわ。山南さんはその才覚と深慮で、新選組と私を充分に助けてくれそうですもの』

伊東さんの言葉に、会議中の広間の空気は一変した。

『──伊東さん、今のはどういう意味だ』

歳三君の口調も強くなる。

『あんたの言うように、山南さんは優秀な論客だ。……けどな、山南さんは剣客としても、この新選組に必要な人間なんだよ!』

『歳三くんっ!!』

歳三君は、私の叫び声にはっとした。過ちを犯したことに気付いたのだ。
敬助君が怪我をした左腕をさすり、憂い気にうつむいた。

『ですが、私の腕は……』

『あら、私としたことが失礼しました。その腕が治るのであればなによりですわ』

伊東さんは、にっこりと微笑んで謝罪した。





「歳三君があんな失態を犯すなんて珍しい……」

「それだけ山南さんのことが心配なんだろうよ」

「そうだな。俺たちだって心配してんだぜ。な、総司」

「…まあ、そうですね」

カードを片付けながら、総司君もまじめな顔でうなずいた。

「みんなの気持ちは分かっているとも。ただ、今は……君たちの結束が試されているときなのかもしれないな」

| pagelist |

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -