52
土方歳三side
「すげえ、なんだこりゃ!」
不知火が感嘆の声をあげる。
「ごほっごっほ!」
「……なんなんだ今のは」
俺と風間の周りには、白い粉がそこらじゅうに舞っていた。
「風間、刀折れてるぞ」
「何?……貴様、これがもし家宝の刀だったらどうしてくれるんだ」
「俺が知るかよ」
「ごめんごめん、私のせいだ。君たちが刀を合わせる瞬間に、これ撒いたんだ」
袋を片手に笑いながら口をはさむ香耶。
聞けばどうやらこの粉は小麦粉だったらしい。小麦粉が何で爆発すんだよ。
「君たちを止めようと思ったんだけど手が塞がっていてね。それで手元にあったメリケン粉を投げたのさ」
だったら荷物置けよ。
「刀を合わせた瞬間に火花が散ったんだろうね。それで一瞬で粉塵爆発、ってわけ。危険ですので絶対に真似しないでください」
「なにが真似しないでくださいだ! てめえこそ何の真似だ!!」
「あはは」
俺たちが言い合っているうちに、もう一人連中の仲間で赤毛のやつが、気配も無く俺たちのそばに現れた。
「風間、不知火、ここで何をしているのです。そろそろ例の会合に向かわなければ」
「俺もかよ!? あーあ、とっとと帰ればよかったぜ」
「天霧か…ちっ仕方ない」
風間は嘆息をもらして折れた刀を鞘に納める。そして鋭い眼光をこちらに向けた。
「香耶、次は必ずお前を連れて行く。それまで待っているがいい」
「うん、また会おーね。ついてくかどうかは別として」
風間は勝手なことを言い捨てて、通りに消えていった。
おい、黒い羽織が粉まみれだったがあのままでいいのか。
そして俺たちふたりだけになった。
ちょうど人通りも途切れて、あたりは静寂に包まれる。
風間らの気配が消えるまで見送って、香耶は俺に振り向いた。
「結果はどうあれ助けてもらったんだよね。歳三君、一応ありがとう」
一応て……確かに結局ことを全部収めたのは、香耶とあの天霧って野郎だが。
「……で、なんなんだあいつらは」
「千景君は…知ってるよね。知り合いだったんだよ。天霧君と不知火君は京に来てからの仲だね」
敵と親しくしてんじゃねえよ。
……なんてこいつに言っても無駄なんだろうな。
「…わかった、もういい。この話は後だ。それよりてめえは不知火から何を買ったんだ」
「ああこれ? ふふ、今にわかるよ」
「危険なもんじゃねえんだろうな」
「もちろん……あ、粉塵爆発の可能性のあるメリケン粉以外はね」
ああそうかよ!
とりあえず香耶の言葉を信じることにして、屯所に帰ることにした。
← | pagelist | →