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ふたりで連れだってやってきたのは北の離れだった。ここには婆娑羅の幸村君と佐助君が逗留中。
佐助君には先ほど会ったが、そのとき彼はたしか「真田の旦那が女に」などと言いかけていた。おそらく幸村君も、例にもれず女体化してしまっていると考えられる。
早朝のこの時間帯、いつもの幸村君なら道場で稽古に精を出しているのだが、今日はまだ離れの自室から出ていなかった。
「幸村君? おじゃましまーす……」
三成君たちの部屋とは違って、幸村君の部屋は静かである。彼なら破廉恥だなんだと騒いでいそうなものなのに、意外だ。
遠慮気味に声をかけ、そろりとふすまを開けると、床に臥せった幸村君を、佐助君がうちわでパタパタあおいでいた。
「あれ、幸村君、具合悪いの? 大丈夫?」
「あはー、旦那にはちいと刺激が強すぎたみたいなんだわ」
「……ああ、そういう感じか」
騒ぐ以前の問題だったらしい。うなされながら寝込む幸村君の顔を覗き込む。佐助君がギャル系美女なのに対して幸村君は正統派美少女といった雰囲気。次はぜひとも起きてるときの顔を拝みたいものだ。
残念な気持ちを隠して「お大事に」と真田組の部屋を辞した。
「うーん、結局のとこ原因は何だと思う?」
「ふん。どうせ山南が何かしたのだろう」
「敬助君なら実験台に選ぶのは私か歳三君のどっちかでしょ。他軍の居候にまで薬を盛ったりはしないと思うよ」
「ならば確かめてみればわかることだ」
そうして私たちが足を向けた敬助君の部屋。そこには敬助君のほかにも副数人の気配があった。中をうかがうと途方に暮れたような雰囲気が漂っている。聞き耳を立てると思った通り、女性の声ばかりが聞こえてきた。
「原因が山南殿の薬でも忍たちの術でもないとるすると、我々は原因を突き止めるまで、このままおなごの姿で過ごさねばならぬということに」
「まいったなぁ。こんなことが知れたら間違いなく月神軍の危機だよね」
「おや、我々はともかく竹中殿はたいした差異を感じませんが」
「むっ。山南殿、それどういう意味?」
「おふたりともおやめください。今は内輪もめで身持ちを崩している場合ではありません」
「信繁の言うとおりだ。気が立つのはわかるが、あんた達もこのままじゃ香耶の前に顔出せねえだろう」
「たしかに」
「そうですね……」
部屋にいるのは、敬助君、幸村、半兵衛君、歳三君の四人だった。
私の前に顔出せないって……、手遅れな気がするけど。もうここまで来ちゃってるもの。でも幸村と半兵衛君は、仮にも私を好きだと公言してるわけだし、ここは気づかなかったことにして去るのが思いやりってもんだろうか。
なんて思案していると、私の横にいた千景君が無情にも部屋のふすまを思いっきり開けてしまった。
『!!!』
「あ、っちゃー」
中にいた四人が驚いた顔をして一斉に振り返った。みんなそれぞれタイプの違った美人さんで眼福ものだ。
そして「貴様らだけ隠れようなど卑怯な真似は許さん」とは千景君の言い分である。要するに赤っ恥さらすのが自分だけじゃ我慢ならんってことだよね……。
少し目を見開いただけで、一番初めに冷静さを取り戻したのは敬助君だった。彼はなんだかちょっと破廉恥な女教師、みたいな印象である。
「……なるほど。全員おなご、という事態は回避できているわけですか」
「それのどこに安心できる要素があんの? 私はおなごのままが良かったんですが」
「喜べませんか。現在月神軍に男は香耶ひとり。つまり君のハーレムと化しているのですよ」
「や、やめて! あえて目をそらしてきたとこに触れないで!」
起きぬけにくのいち小太郎に襲われかけたことを思い出してしまう。明日以降もあんなのが続いたら身がもたない。なんとしても元に戻る方法を探さないと……!
じり、と後ずさると、それを阻むように誰かに手を掴まれる。目線を下げるとそこには膝をついたまま私を見上げる半兵衛君がいた。もともと女子力の高い彼。上目遣いがあざとすぎる。
「じゃあ俺、今夜香耶の部屋に行ってもいい?」
「いいわけないし! なにしに来るの!?」
「もっちろん、香耶の筆おr」
「ぎゃあああ破廉恥不埒者ォオオ!」
婆娑羅幸村みたいな雄たけびを上げて、私はその場から逃げ出した。もうこのままじゃ女性恐怖症にでもなりそうだ。
※オチない……(2015/08/04)
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