犯人と外とのいざこざに首を突っ込むこともなく時間が過ぎた。
次にパーテーションのドアを開けたのは、強盗グループの誰かではなく警察官たちである。

「みなさん、お怪我はありませんか!」

それを皮切りに、武装した関係者がなだれ込んできて、私たち人質は生命の危機から脱したことを知った。警官に誘導され、人の目から厳重にガードされながら外に出される。
耳が拾う断片的な情報をつなぎ合わせて推察するに、どうやら犯人たちはみな投降したらしい。

物々しい雰囲気の関係者たちの中には毛利探偵や目暮警部の姿もある。コナン君は誘導される私たちの列から抜けて、警部たちに駆け寄った。

「おじさん! 蘭姉ちゃんは?」

「コナンか。蘭なら先に解放されて、今は念のため病院に向かってるぞ」

「蘭君に怪我はないから安心しなさい。さ、君も病院へ」

「そっか、よかったー。でも不思議だったんだ。強盗犯はまっすぐ蘭姉ちゃんのところに来て『毛利小五郎の娘だな』って言ったんだよ。これって蘭姉ちゃんの顔と名前がわかってたってことだよね?」

コナン君の言葉に警部たちの顔色が変わる。

「それは本当かね? コナン君」

「──ということは、警部、これはひょっとして内部に共犯者がいる可能性がありますな」

「ああ、毛利君の言うとおりだ。……すみませんが、人質のみなさんはお待ちいただけますかな」

なに、お時間はとらせません、などと言いながらこちらに歩み寄ってくる警部たち。その後ろで、私と目線を合わせたコナン君が、ニッコリと空々しい笑みを浮かべた。
……おいおいまじか。




結局、探偵たちの推理ショーに最後までつきあう羽目になって、本当の意味で解放されたのはかなり時間が経ってからだった。

「香耶さん、会いたかった……!」

病院で検査を終えた私を待ち受けていたのは、年下の恋人の熱烈な抱擁である。
同じ待合室には蘭ちゃんやコナン君たちの姿もあるのだけど、総司君にそんなことはお構いなしだ。

「大丈夫? 強盗にどこか触られたり脱がされたりしなかった?」

「総司君が心配するようなことはなにもされてないよ」

これに関しては、まぁ幸運だったと言える。女性行員の中に強盗の協力者がいたせいだろうか。
総司君が私の肩口に頭をすり付けて甘えてくるので、その背中をぽんぽんと撫でて落ち着かせた。


「──新選組が敵対マフィアに襲撃されたよ。今回の強盗はこっちの副長を出し抜くために仕組んだみたい」

「ふぅん。ちゃんと追い払った?」

「当然。土方さんも珍しくカンカンでさ、徹底的に潰すことになったんだよね」

相手の耳に唇を押しつけてささやき合う私たちは、周囲にはきっとただベタベタしてるだけにしか見えない。会話の内容はなんとも色気のないものだが。

どうりで強盗犯たちが焦るわけだよ。そうじゃなくてもどうせ彼らはトカゲのしっぽ切りにされただろうけどね。
新選組副長、土方歳三の名と顔は、ボスである私よりも有名だ。正式な場に顔を出すことの多い彼はマフィア新選組の顔と言っていい。
物騒な業務連絡を終えた私たちは、身体を離してふつうに話し始める。

「あーあ、今回のことで師範代にまた叱られそうだな」

「香耶さん、自分で思ってるよりかなり無防備だからね」

そうかなぁ。
私は待合室をぐるりと見回し、こちらを見て見ぬ振りをするコナン君たちに歩み寄って話しかけた。

「コナン君、君とはなにかと縁があるみたいだし、連絡先を渡しておくよ」

「へ? あ、ありがとう、香耶お姉さん……」

プライベートな番号を走り書きした名刺を渡すと、コナン君は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
どうせ彼は、自分の正体に気づいてしまった私を調べずにはいられないのだろうからね。
機先を制した行動は主導権を握らせないためでもある。こちらは少々後ろ暗い背景を抱えているのだ。名探偵に悟られるわけにはいかない。

「蘭ちゃん、今日は迎えが来たから帰るけど、毛利探偵によろしくと言っといてくれないかな。何かあれば事務所に寄らせてもらうよ」

「あ、はい。いつでもお待ちしてます」

ぺこりと頭を下げた彼女には好感を持った。とてもしっかりしたお嬢さんだこと。
ちょっとした意趣返しに、にまにまと意味深な笑みをコナン君に向けると、彼はさっさと帰れよと言いたげにしかめっ面を浮かべたのだった。
(2015/06/23)

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