one deys' wonder
※探偵×薄桜鬼(マフィア新選組)



「ねえ、香耶おねーさんはきのうの夜どこにいたの?」

めがねの少年があどけない声音で私にそう尋ねてきた。少年の名前はたしか……そう、江戸川コナンだ。

昨夜ホテル内で起こった殺人事件。もちろん私と私の連れは犯人じゃない。互いにそれを証明できる。
だが折悪しく同じフロアに居合わせてしまった私たちは、毛利小五郎をはじめ警察関係者たちによってホテルから出ることを禁じられてしまった。明言はされていないが、容疑者として疑われているのだろう。
容疑者は私たちを含め合計六名。全員の聴取が終わるまであと何時間待たなきゃならないんだろうか。
まいったなぁ。うちの“鬼の副長”らが動き出す前にカタがつけばいいんだけど……。

「昨日の夜は連れと外に食べに行って、そのあとはホテルの部屋にずっといたよ」

ぽんぽんと少年の頭をなでると彼はほんのりと頬を染めた。恥ずかしかったかな。
私はなに食わぬ顔で携帯端末をいじり、敬助君から送られてきた関係者データを閲覧する。目の前でなにやら考え込む少年の顔を眺めながら、彼の名前が書かれたファイルをタップした。

江戸川コナン。
法的に存在しない人物だった。まぁ、親の都合等事情があって戸籍を持たない者もいるので、彼もそうだと考えられなくもない。無戸籍者でも自治体の配慮で義務教育を受けられる場合はある。
が、彼に関しては少々違うようで。敬助君が即席で作ったのであろう調査報告書を下へとスクロールすると、彼の正体が有名な東の高校生探偵である可能性について記述があって、私は思わず画面と少年の後ろ姿を見比べた。

「ありえない。…………こともないか」

羅刹や輪廻転生を目の当たりにしてきたのだから、外見が退行した人間がいたって不思議ではない。……いや、不思議だけど。
ファイルマネージャーを閉じて携帯をポケットにしまうと、ちょうど背後から私の連れがやってきた。

「はぁ、やっと終わった」

「総司君、時間かかってたね。なに聞かれた?」

「うん……昨日のアリバイと、あとは香耶さんのことをすこしね」

「私のこと?」

どことなく疲れた様子の総司君は、充電させてよと私に後ろから抱きついた。彼は正真正銘の現役男子高校生だ。
抱きつかれたことで視線が下を向いて、いつのまにかこちらをじっと見ていたコナン君と目が合う。コナン君はにこりと笑みを作って首を傾げた。

「そのひと、おねーさんの恋人? ずいぶん年が離れてるんだね」

この指摘に反応したのは総司君だった。

「ふぅん。なに? 僕が大人な香耶さんとつきあってたら変? つり合わない? ちょっと鬼ごっこでもしながらじっくり話聞こうかな?」

「え、いやあの僕は……お、お似合いだとおもうな!」

いくら日頃から気にしていることをつつかれたとはいえ、高校生男子が小学一年生を威嚇する姿は大人げない。
と、そのとき、後方から急に大声があがった。

「わかった!」

「なに? 本当かね毛利君!」

毛利探偵と目暮警部の声だ。どうやら犯人が分かったらしい。ホテルに缶詰にされるのもいい加減辟易していた私は、これでやっと話が進むと傍観を決め込んだ。
が、しかし。

「犯人は──月神香耶さん、あんただ!」

「へ?」

この局面であろうことか自分が毛利探偵に名指しされ、ぽかんと口を開けてしまった。
総司君に抱き寄せられ、彼の背にかばわれて、はっと我に返る。

「ちょっと、香耶さんが犯人のわけないでしょ。いい加減なこと言うと斬っ」

「私が犯人だと思う根拠をお聞かせねがえませんか毛利さん!」

私は総司君をおしのけて、後に続くであろう彼の物騒なセリフをむりやり遮った。
目暮警部にも促され、毛利探偵は自信ありげに説明を始める。

「動機はずばり、口封じです。香耶さん、あんたみたいな美人が高校生のガキと付き合うなんておかしいじゃないですか。あんたはおそらく、このホテルで人に見られちゃまずいことをしていた。たとえば──援助交際とかね」

「なるほど! それをネタに被害者に強請られ、ついカッとなって被害者のネクタイで首を絞めた」

「えええ!? いやそんなアホな」

私は被害者とは廊下やエレベーターで二、三言葉を交わした程度の面識しかないのにな……。
そしてあらぬ疑いをかけられたうえに、いろんな意味で神経を逆撫でされた総司君が、今にも毛利探偵に飛びかかっていきそうで怖い。彼を落ち着かせようと軽く身を寄せると、総司君は私の腰にするりと腕を絡ませてきて、苦笑した。きっと彼なりに私の立場を守ろうと我慢してくれている。

「……毛利さん、目暮さん。私たちの身の証は試衛館の者がたててくれます。私と総司君の関係も」

「試衛館……!?」

警察関係者ならば試衛館の名は知っているはず。
新選組の平隊士の多くは一般人に紛れて生活している。新選組が運営する試衛館で、手ほどきを受けて育った隊士たちは、勉学にも武道にも秀でた者が多い。そして新選組に貢献するために、経営者や政治家、警察官僚を目指す者も少なくない。
試衛館は優秀な人材を輩出する私学だと名を知られるようになっていた。そこからマフィア新選組への関連が明らかになるなんて不手際も決してない。

「失礼ですが、貴女のような女性が試衛館と何の関わりが?」

目暮警部が眉をひそめた。彼らには聴取の時点で、私は経営者だと説明してある。

「私も総司君も試衛館の門下生なんですよ」

「……僕はともかく香耶さんは門下生って言わないでしょ。道場主で師範なんだから」

「な、なにぃ!? 香耶さんが!?」

信じられない、という表情で毛利さんが絶叫した。
私は余計な情報を口走った総司君を半眼で見上げる。彼は悪びれることなく肩をすくめた。

「あれ、言わないほうがよかった? でも香耶さんがこれ以上バカにされるの、黙って聞いてられなかったから」

「言って問題はないけど、ふつう信じられないでしょうが。私みたいなのが師範だなんて言われても」

「──いや、あり得ない話じゃないな。試衛館道場の師範は若い女性だと聞いたことがある。本庁の試衛館出身者に確認しよう。高木」

「は、はい!」

目暮警部が難しい顔で部下に指示を出し、すぐに私と総司君の身柄は明らかとなった。同時に不名誉な容疑も晴れて肩の荷が一つ下りる。
ため息をつきながら廊下の壁に身を預けると、コナン君が好奇心いっぱいの顔をして私に近づいてきた。

「あれ? 香耶おねーさん、疑いがはれたのにあんまりうれしそうじゃないね」

「そりゃあ……あとで師範代に怒られると思うと憂鬱で」

歳三君には表で問題を起こすなと口酸っぱく言われているからなぁ。

「でもこれって不可抗力じゃない?」

「仕方ないさ。私の身に何かあれば、たくさんの門下生、元門下生たちに迷惑がかかるから」

新選組は裏の組織。いくら対策を講じてあるとはいえ、警察に腹を探られることは極力避けたい。

「と言うか、」

と、ここで総司君が話に割り込んできた。

「僕たちみんな、香耶さんのことが大好きだからね。このひとに何かあったら、きっと日本国内で内乱が起こるよ」

「あはは、やめてよ総司君ったら」

ありえそうで笑えねえ……。
コナン君は総司君の言葉をものの例えと受け取ったようで、一瞬呆れたような視線を私たちに向けた。

「……そっか。香耶おねーさんってすごいんだね!」

「ありがとう」

君もね。小さな探偵君。……なんてセリフは喉の奥に飲み込んでおいた。


※コナン世界(YAIBA)の沖田総司とは今のとこ無関係ってことで。(2015/05/04)

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