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土方歳三side



さっきまで激しい雨が降ったりやんだりしていたが、今はもう雲の隙間から晴れ間が覗いている。


「血の呪い、か」


俺たちは全員濡れネズミで屯所に帰りついた。
貧血でふらふらの香耶は総司が背負って帰り、雪村が身体を拭いて着替えさせた。
しばらくして落ち着いてから、幹部を集めて報告会議が開かれた。
そこでされた香耶の話は、信じがたいものだった。


「外傷を得て流れる血が、私の肌を離れた瞬間に黄金に変化する。そして傷はすぐ治る。という特異体質なのだよ。私は。これは生まれつきではなく私にかけられた血の呪いによるものだ」


という話だ。

あの場に居合わせなかった幹部らは信じがたいようだったが、俺は実際に血が黄金に変化するところを見た。
それに、あんなに深かった肩の傷が、屯所で包帯を巻くころには塞がっていたんだ。
信じねえわけにはいかねえだろ。

なるほど、こいつが金を湯水のように使えるのは、つまりこういう訳だったんだな。
入り用のときは、手でも足でも切りつけて血を出せばいい、と。



橋の上で集めてきた黄金の粒をみて、俺は眉間にしわを寄せた。

「馬鹿やろうが。てめえの体を傷つけるような真似すんな」

「へえ、こんな羅刹まがいの私に、優しいことを言ってくれるんだね。ありがとう」

あの濁流で拾い上げた狂い桜の簪を、手元でくるくると弄りながら香耶は笑った。



「………おい、ちょっと待て。なんでてめえ羅刹のこと知ってやがる」

「今更な話だねぇ、歳三君ったら。羅刹の存在はもう十年以上前から知っているよ。綱道君とは知り合いだったって言ったじゃないか」

「そんな大事なことを黙ってるんじゃねえよ!!」

「あはは、ごめんごめん」

こっちは笑い事じゃじゃねえんだよ!

……もういい。わかった。
俺たちはもうこの程度でおいそれと香耶を処分するなんてことはできねえからな。
総司がどうこう言うとか以前に、新選組を預かる会津中将と仲のいい友達だっつうんだから。

とにかく香耶のこの話しは、幹部一同に緘口令がしかれることとなって幕を閉じたのだった。



会議が終わり、俺が自分の部屋で仕事をしていると、総司が珍しくまじめな顔してやってきた。

「土方さん、何であの時 香耶さんに口付けしたんですか」

「なんでもなにもありゃ宍戸槻を説得するために」

「やりすぎなんですよ。知ってるでしょう? 香耶さんは僕と恋仲なんですよ」

「…やりすぎだったのは認める。調子に乗ったことも。だがてめえが香耶と恋仲だってのは認めるわけにゃいかねえ」

香耶が総司にほぼ丸めこまれる形で恋仲になったのは知っている。

「……それって…新選組の副長として? それとも、一人の男として、ですか?」

「………………どっちもだ」

「ふぅん………」

そう、あれは、説得のためとかじゃなく、本当は俺が望んだ口づけだったんだ。
だから、止まらなかった。止める気も無かった。

大馬鹿やろうだ、俺は。今頃になって、やっと気付いた。



「……負けませんから。絶対に」

言い捨てて部屋を出て行く総司の後姿に、俺も強く言い放った。

「かっさらってやるよ」

俺は、香耶が欲しいんだ。

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