月の神
※Pomeraのフォルダ漁ってたら出てきた文章。日付見たら2013年9月作成になってた。ちょっと手直しして公開です。
※「私と、愛刀、狂い桜」「空模様、マフィアびより」を知らないと意味がわからない不親切設定。キャラは山南さんしか出てきません。
「ぎゃぁぁあああ!!!」
誰かの断末魔に耳をふさぐ。さんばらに切られた髪で、耳も視界も隠した。
「立て。次はおまえの番だ」
「いや……」
いやだ! 私も意味不明な実験に使われて、あの屍の仲間入り、なんて……!
「ぐずぐずするな!」
「ぐはっ!!」
みぞおちを蹴られてうずくまった。
従わなければ殴り殺されてしまう。以前、抵抗し続けた女性がいたけれど、つれていかれてたくさんの研究者に陵辱されて研究所の外にくくりつけられて風雨にさらされて死んでしまった。きっと見せしめだったのだろう。可哀想だった。ああなりたくはないから、私には、従うしかなかった。
冷たいステンレスの施術台は、血で汚れていた。きっと今までの犠牲者たちのものだ。私は黙祷してその台にあがる。ここで私も犠牲者に名を連ねるのだろう。達観してまぶたを閉じると、身体を拘束され目隠しをされる。
「これよりno.1024Nのカンタレラ施術実験を開始する」
腕を抑えられ、ぶつりと肌を突き抜け注射される、なにかの薬。
どくり、と全身が脈打った。
「あ"あ"ぁぁあああ!!!」
自分の断末魔の悲鳴が遠くで聞こえるようだった。
身体の中が、まがまがしいものにつくりかえられる。気持ちが悪い。
「no.1024N。推移は順調だ」
「成功……か!?」
のたうち回る身体を押さえつけられ、ひやりと硬質の物体が腿にあてがわれると思ったら。
「いっあ"あ"あぁぁあ!!!」
深くえぐられた。
「おい、見ろ!」
研究者たちが驚愕して息をのんだ。
「血が……黄金に、」
しかし、言葉はそれ以上続くことはなかった。
ざしゅぅ!!
「ぎゃぁぁあああ!!!」
研究者たちの悲鳴に、肉を絶つ音。濃い血のにおい。
私は拘束されて、視界もふさがれていて、何が起こってるのかわからなかったけれど。それでも、研究者たちにとって何か不測の事態が起こっていることはわかった。
「貴女、まだ生きていますか?」
聞いたことのない男の人の声。研究者たちとは違った。肩を掴まれて、私はびくりと身体をふるわせる。今度は駆け寄ってくる足音と、若い女性の声も聞こえた。
「敬助君、早く!」
「わかっています。……この研究所はもう終わりです。君はここから逃げなさい」
身体の拘束が解かれた。目隠しもはずされて、私はやっと周りを見ることができた。
目に前に飛び込んできたのは、眼鏡の男性と。その向こうで血に塗れた日本刀を携える銀髪の女性。
彼らは一様に返り血で汚れていて、なのに瞳には優しい光を宿して私を見ていた。
「それとも、私たちと一緒に来ますか?」
行くところのない私に、その誘いを断るという選択肢はもちえなかった。
驚いた。その一言につきた。
私は山南敬助と名乗る人物に背負われる。その私たちの行く道を研究者たちが阻むが……。
「灼月っ!? 灼月が出たぁああ!!」
「うあぁぁあああ!!」
まるで踊るように敵を斬り捨て、退路を切り開く女性。彼女の腰まである銀色の髪は、私とお揃いの色のはずなのに、とても美しくて。
「灼月、さん? ……綺麗なひと」
「しゃべっていると舌を噛みますよ」
「あ……うぐっ」
舌を噛んだ。走る山南さんの背中にしがみつき私はおとなしくすることに決めた。
「人間ATMを作りたい気持ちは分かるけどさー」
灼月さんは立ちふさがる敵が放つ銃弾を、刀の刃で弾き敵陣の懐に入り込む。速すぎて何が起こってるのかほとんどわからなかったけれど。彼女の凛とした声音は、はっきりと耳に届いた。
「ひとに迷惑かけちゃいけないって小学校で習ったはずでしょ?」
人間の心臓を貫き、足をかけ引き抜くその力でまた別の敵を薙ぎ斬る。
人を殺すのは悪いこと。だから怖いこと……のはず、なのに、目が離せない。どうしてか、血塗れの彼女の姿が魅力的だと思った。
研究所は地下にあったらしく、閉塞感のある通路を抜けると私たちは陽光に包まれて目がくらんだ。
「敬助君、幻術!!」
「はいはい。まったく、人使いの荒いボスですよ。君は」
剣を振るう灼月さんの銀髪が、ゆらりと揺れたかと思ったら黒髪へと染まった。同時に返り血で生地の色もわからないくらい汚れた彼女の服が新品みたいに綺麗になった。な……なにそれ。
「ついでに君も」
はっと気づくと自分の服も被験服からカジュアルな服に。不揃いに切り捨てられていた髪は薄茶のショートになっていた。
す、すごい。
そうして敵をなぎ倒す灼月さんに守られながら、私たち三人は敷地の外に出た。外の空気を吸うのは久しぶりで、青空を見て泣きたくなった。
「カンタレラ研究所終了のお知らせでーす」
灼月さんは何かのコントローラーのようなものを懐から出して、それを宙に放り投げた。そして手にしていた刀で一瞬にして切り刻む。
――ドォォオオン……
はっと振り返ると背後の研究所から爆炎が吹き出していた。人体実験が行われていた建物は、跡形もなく吹き飛んだのだ。あまりにあっけなくて、私は言葉を失ってしまう。
「拠点に戻りましょうか」
「そだね。あー、やっと帰れるー!」
私は……これからどうなるのだろう。
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