※ハンター試験後編


四次試験開始当初から私は自分が合格するという選択肢をほぼ捨てていた。

この次の最終試験は、たしか相手を殺せば即失格という負け上がりトーナメントだったはず。ニコル君一人でも大丈夫だろう。最終試験でたった一人の不合格者が誰になるかはすでに知っている。
ならば私がするべきことは、この四次試験の最中ニコル君を護衛することに尽きる。さしあたって問題になるのはニコル君の187番のプレートをターゲットに狙う誰かと、1点にしかならないプレートを無作為に狙ってくるその他。

「こんなことだろうと思ったよ◆」

四次試験開始三日目。ニコル君を木の枝に吊るし、のんびり獲物がかかるのを待っていると、やってきたのはヒソカだった。ヒソカは私に合格の意志があまりないことを察して私の手にプレートを渡してくる。見ればそれは80番と44番。

「その80番、君たちを狙ってたみたいだから殺しちゃった◆ あげるよ★」

「……」

これらの番号はもともとヒソカが持つべきプレートである。まぁニコル君をここまで連れてきた時点でストーリーがーとか言うつもりもないけど、この44番を受け取るのだけはマズイ。これは主人公ゴン=フリークスが狙っているプレートだ。おそらくはここの様子もどこかから見ていて、ヒソカのプレートが私の手に渡ったことで大焦りしているに違いない。

「いらない。これはヒソカが持ってなよ。自分の獲物は自分でちゃんと狩るからさ」

「……そう◆」

嘘だけど。
網に吊るされたまま居眠りしているニコル君を一瞥してプレートを二枚ともヒソカに返すと、彼は微妙な表情で受け取った。というわけだから原作通りがんばれよ、ゴンくん。
結局、七日の間ゼビル島の中をそれなりに移動したが、出会ってちゃんと言葉をかわした受験生はニコル君を除けばヒソカだけだった。

最終日。逃げ出して辞退しようとするニコル君を引っ張って集合場所のスタート地点に連れて行き、四次試験合格を確定させてやる。ちなみに私はプレートを一枚も所持していないためこの時点で不合格だ。迎えの飛行船には乗せてもらえないのだろうな、と若干惨めな思いでたそがれていると、いきなりヒソカが私の身体を抱き上げて、合格した受験生たちと一緒にスタスタと飛行船の中に上がっていった。

「いや、ちょ」

「僕は香耶のものだろう★ 僕たちを引き離すことは誰にもできない◆」

ぞわっと悪寒のようなものが背中を這い上がったが、こんな屁理屈で最終試験の会場に連れて行ってもらえるのなら我慢するか……。ニコル君も置いて行かれるのは嫌なのか、大人しくヒソカと私の後を付いてきた。
飛行船の中ではネテロ会長による面談が行われた。受験生たちが一人ずつ呼ばれ、ニコル君も呼ばれ、全員の面談が終わった頃合いにそろそろトーナメントも完成したかなぁと他人事のようにゴロゴロしていたら。

『受験番号186番の方、第一応接室までおこしください』

なぜか私が最後に呼ばれた。
思わず両隣りにいたヒソカとニコル君と顔を見合わせる。するとヒソカは訳知り顔でにやにやと笑いだし、ニコル君は大量の冷や汗をかきながら目を泳がせた。なんだこいつら何を隠してる。私は首をかしげながら指定された部屋へと向かった。

「よくきたの。まあ座りなされ」

応接室で待っていたネテロ会長に促され、私は懐かしの畳の上に正座する。

「分かっているじゃろうが、すでにおぬしは四次試験で失格が決まっておる」

「はあ」

「じゃが先に面談を行った受験生たちのほとんどがおぬしの名を出してきてな」

「はあ……?」

どういうことかと詳しく聞けば、ヒソカやニコル君だけじゃなく、特に話をしたことすらない受験生たちまでもが私を名指しして「注目している」「戦いたくない」「戦いたい」など、なにかしらの評価をつけたという。……っていうか「戦いたい」って言ったのヒソカ、おまえだろ。
それでネテロさんは私に興味を持ったようだ。

「おぬしならば四次試験合格も容易かったじゃろうて。ワシの見たとこ今年の受験生の中でおぬしが一番素質に恵まれておる」

その言葉に背筋が冷えた。試験中たいした念も使ってないのに、ヒソカやイルミ、主人公たちよりも私に素質があると評したその根拠は……。だいたい素質って何の素質だ。念能力者として? それともハンターとして? 疑問をぶつけてもこの食えないジイサンは笑うだけで何も答えてくれなかった。

「来年は誰かの依頼ではなく己の意志で受験しなさい。おぬしなら確実に合格するじゃろう」

「……そうですね」

気が向いたら、なんて私はあいまいにうなずいた。

ネテロさんのはからいで最終試験を見学させてもらえることになった。この試験は原作とたがわず一勝すれば合格の不公平トーナメントである。
試験中、私におんぶにだっこでここまで残ったニコル君。そんな彼に高評価なんぞ望めるはずもなく、対戦機会たった二回の大シード。ニコル君は「終わった……!」と死にそうな顔で膝をついていたが私は内心喜んだ。これでいい。
ニコル君の出番が来る前にキルアがレオリオの対戦相手を殺して失格が決まる。こうしてニコル君はハンターライセンスを手に入れたのだった。



「香耶さん、ありがとうございました。俺がハンターになれたのはあなたのおかげです」

会場となっていたホテルの前でニコル君が深々と頭を下げた。試験前よりなんとなくたくましくなった彼を前に、言うこと聞かない生意気な子犬が従順な愛玩犬に成長したみたいだと思った。
ホームコードを交換し合ってると、ヒソカが私の背後に立ち、周りに見せつけるように腰に手を回して引き寄せてきた。

「次はどこに行くんだい、香耶◆」

「依頼人に連絡取らなきゃなんないし、いったん帰ってから決めるよ。それじゃニコル君、君も気をつけて帰ってね」

「はい」

「ククク◆ くれぐれもハンター証は盗られないようにね★」

「は、はい」

ヒソカの言葉で青ざめるニコル君に私も苦笑する。縁起でもないなぁ。あんなに苦労したのに。
私はヒソカとともに、ニコル君やこちらに視線を向けている他のハンターたちに背を向けて、ひらひらと手を振った。

これで依頼は完遂だ。もうこの手の依頼は二度と受けたくない。
……裏ハンター試験? そんなのハンターじゃない私が手を出せる領域じゃないっての。

(2015/01/07)

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