やっぱり日和見

※なまケモノ無双編if。時渡りで数年後の未来に行ってきた香耶が、帰ってきたあと妊娠発覚した。



信濃、上田城。

「……では、相手は先の世で情を交わした男なのですね」

「まぁね……」

目の前に座る幸村が怖いです。冷静に見えるけど絶対怒ってるよ。声がいつもより低いもん。
そりゃ私だって、もしも女の子の友達(仮にくのちんとか)がトリップして帰ってきて「妊娠しちゃったからひとりで産んで育てるねー」なんて言ってきたら、「相手誰だァアア!」ってなるけどね。怒り狂うけどね。おもに相手の男に対して。

「その男は私の知る者でしょうか」

「まぁ、その……はい」

「斯様に煮え切らぬ回答、貴女らしくございませぬ。よもや敵軍のものではありますまい」

「いや、そういうわけじゃない……んだけど」

現時点では間違いなく味方である。
でも向こうじゃほとんど閉じ込められてて自由がなかったから、周りの情勢の把握なんかしようがなかったんだよなぁ。せっかく未来にいたのに、もったいないことした。
私がそうこぼすと、幸村は愕然としてうつむいた。

「つまり同盟国の者が貴女を無理やり……、」

「あー……でも衣食住に生命の安全まで保障されてたから途中でどうでもよくなっちゃってさ、あはは」

「無理やりだったことは否定なさらないのですね」

うぐ。まずいな、百戦錬磨な智勇兼備のつわものに、なすすべもなく情報をかすめ取られていく。

「で、でも私も逃げようと思えば逃げられたのにそうしなかったし」

「慈悲深い香耶殿のこと、大事なものや誰かの命を盾に取られれば御身のことなど二の次にされるのでしょう」

ギクッ。幸村の読みはおおよそ当たっている。抵抗するならここで死んでやる、みたいな意味合いのことを言われてあれよあれよと流された。
裏を返せば、それで囚われてもまぁいいか、と思うくらいには私も相手に好意を持ってたってことだ。

「……つまり貴女は未来で味方だと思っていた男に裏切られ、辱められ、監禁され、あげく身ごもって捨てられたと」

「や、まぁ……言い方アレだけど、おおむね間違ってないな。でも捨てられたんじゃなくて自分で戻ってきたんだよ?」

「その卑劣な所業、たとえ同盟の武将だとて到底許せるものではありませぬ!」

幸村が怒りに震えて十文字槍を手に立ちあがる。これで尋問とお説教から解放されるやったね! なんて考えられるほど私は楽天家にはなりきれなかったようだ。部屋から飛び出していきそうな彼の腕に慌ててすがりつく。

「ちょっと待った。どこ行くの!」

「貴女の信義と貞潔を踏みにじった痴れ者を討ちとって参ります」

「君は一体だれを始末するつもりでいるんだ」

ダメだ。この物騒な天然ほっといたら日ノ本中に血の雨が降る。正直に相手の名を吐いちゃった方がいいのか……?

「第一、未来での所業はともかく今は無実なんだから、相手も困るだけだって」

「香耶殿を煩わせは致しませぬ。御子の父親は不肖ながら私がつとめます故、貴女はどうか心置きなくこの城にてご自愛ください」

「……いや、あのね、父親は最初から君なんだよ、幸村」

「……え?」

私の言葉を理解しきれず、幸村が止まった。

「それは……もとよりこの幸村に帰嫁なさるおつもりだったと、」

「そうではなくて、私の腹には真田幸村の血を継いだ子が宿っていると言ってるんだ」

「…………っ!」

別に、これをネタに幸村を脅して室になろうだなんて思っていない。そんなつもりがあったら初めにひとりで育てるなんて言わないし。

たっぷり時間をかけて私の言葉の意味をかみ砕き、そして幸村は目を見開いて硬直した。
彼の手から滑り落ちた十文字槍が、床に転がり重い音を立てる。

「……では……、貴女を凌辱し捨てた男と言うのは……」

「未来の君だね」

捨てられたんじゃなくて逃げてきたんだっつーの。

それはともかく、どうしようか。この城で私の面倒を見てるひとがおもに幸村だったので彼に報告したけど、言わなくていいことまで言ってしまった。おかげで日ノ本沈没はまぬがれたけど今度は幸村が詰め腹切りかねん。
顔色を無くしてなにか思いつめる幸村を眺め、私はやれやれとため息をついた。

……全部丸く収める方法もなくはないけど。
私が解決策を口にする前に、先に今にも死にそうな表情の幸村がかすれた声で口を開く。

「……、かくなるうえは、」

「やめなさいなにするつもりだ。言っただろう、今の君は無実だって」

「いいえ、私は無実などではありません……。今この瞬間にも、貴女を誰の目も届かぬ場所に閉じ込めてしまいたいと思っている不忠義者です」

「そこまで思ってくれるのは嬉しいけどある程度自由はほしいな。ま、気持ちがあるなら私と一緒に子の親になろうよ」

と言ったら幸村が驚いて顔を上げた。

「私をお許しになるのですか」

「許すとか許さないとかじゃ……やっぱなんでもない。うん、許しますのでそのかわり、君が私たちを幸せにしてください」

「は、はい!」

一転して表情を輝かせた幸村が勢いのまま私を抱き締めた。
もうこれでいいや。それじゃ私も真田の繁栄のため適度に尽力しますかね。


※ちなみにここで「上田を出てひとりで子を産んで育てる」を選択すると、病んだ幸村が過去から来た香耶を監禁して襲う負のループができあがる。
(2014/12/28)

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