総司君へ


ちょっと急すぎかな、と思ったんだけど、いきなりこんなことをしてごめんね。君に余計な気をまわしてほしくなかったから、なにも言わずに引っ越すことにしました。
みっちゃんに弟のことを頼むと言われていたから少し迷いもあったけど、今日総司君が彼女と幸せそうに歩いてるのを見て、ようやく踏み切ることができました。

プロポーズはクリスマスにするのかな? それとももうした? どっちにしろ彼女と結婚するつもりなら、私なんかといつまでも同じ部屋でいいわけがないからね。他人同士の私たちが同居してること、総司君はあまり疑問に思っていない様子だったけど、恋人からしたら気分のいい状況じゃないでしょう。君は他人の機微に聡いわりにデリカシーに欠けるところがあるから、あの可愛い彼女を困らせたり誤解させて不安にさせたりしないかちょっと心配です。できるだけ私がいた痕跡は消してきたつもりだけど、もし何か忘れものがあったら捨てるかみっちゃんのものだって誤魔化すかしてね。くれぐれも血のつながらない女と住んでただなんて彼女にばれないように。要領のいい君ならできるでしょ。まぁ、多少なりとも近所付き合いもあったし、もし本格的に彼女と暮らすのなら不都合な噂話が彼女の耳に入らないよう、君も引っ越しすることをお勧めします。
お金のことは心配しないで。今は何かと入り用でしょうし、急なことで困らないように、当面は君の口座にこれまで通り家賃や光熱費の半分を振り込んでおきます。お詫びも兼ねてね。

君との共同生活はたのしかった。
最初、お嫁に行っちゃうみっちゃんの代わりに弟が来るって言われた時は不安しかなかったけれど。君もそうだったでしょ? 同居を始めた当初の君は、私のことを警戒してほとんどしゃべらなかったものね。今だから言うけど、なぜかみっちゃんは私と君をくっつけたかったみたいだよ。でも結局あの子の思惑通りにはならなかったわけだ。残念。
でもね、いろいろ書いたけど、私は君との共同生活が無ければよかったなんて思わないよ。そりゃあ初めこそ扱いづらいと思ったけど、今ではずっとこの関係が続いてもかまわないと思うくらいには一緒にいて楽だった。
たのしかったことも、うれしかったことも、腹が立ったことも、傷ついたことも、全部、君と一緒だからいい思い出になった。ありがとう。
次にどこかで会うときは、私のことはただの顔見知りの先輩として接してください。ちづるちゃんのためにもね。

最後に、万が一にも君の彼女にあらぬ誤解を受けないよう、この手紙は読んだらすぐ処分してください。
君達の幸福を心から祈っています。


月神香耶

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