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土方歳三side



新選組屯所である八木邸では、今日も幹部らだけが集まって、攘夷派浪士と羅刹の対応について話し合っていた。
そんな重要な場に、ぱちん、ぱちんと規則的に鳴り響く音。総司が扇を開いたり閉じたりする音だ。

「総司、その手持無沙汰になると扇子をいじるのをいい加減やめやがれ」

「え? ああ……」

言われて初めて気づいたみたいに瞬いて、総司は手元の扇子を見下ろした。無意識だったらしい。
扇子は凝った絹の透かし編みが張られた繊細な一面で、俺たちのような荒くれた壬生狼には似つかわしくない、優美で女性的な装丁である。

それもそのはず。

「おいおい、らしくねえな、総司。そいつは敵の持ち物だったんだろ?」

「別に気に入ったわけじゃないですよ。こうして持ってれば、そのうちあの子が取り返しに来るかもしれないし」

「そりゃずいぶん希望的なこった。ま、俺もその香耶って女には興味あるけどよ」

「でもそいつ随分と別嬪だったそうじゃねえか。だったら新八はやめとけ」

「左之、そりゃどういう意味だ!?」

騒ぎだす新八らを余所に、俺はあの扇子の持ち主とやり合った数日前の一件を思い出した。

その強さ、存在。今思えばずいぶんと現実離れした一行だった。どういう原理か宙に浮いたり地面に潜ったりするやつまでいた。……それを言ったら羅刹の存在もじゅうぶん現実離れしてやがるがな。女は小田原の出だと言っていたが、今のところ裏付けは取れていない。あれほどの戦力と存在感が人の噂に上らないわけがないというのに。まるでそこにいきなり現れたような、強烈な亡霊のような連中だった。
だが、連中は確かにいた。それを総司が持つ扇子が証明している。女がたいまつ代わりにしていたにもかかわらず、煤ひとつついていない真っ白な絹扇が。

対峙した総司も斎藤もあれ以来様子がおかしい。
斎藤はあの銀髪の若い男に押し負けたのが堪えたか、一心不乱に稽古に励むようになった。三番組の隊士からは心配する声も上がっているが斎藤のことだ、自己管理はちゃんとするだろう。

しかし問題は総司だ。
あいつはあれ以来、絹扇を手に物思いに沈むことがある。その姿はまるで女に懸想しているかのようだ。総司はもちろん否定するがな。面倒なことにならなきゃいいが……。



「お茶が入りました」

座敷のふすまの外から声をかけ、雪村が入室してきた。こいつが新選組に来てもう一年が経つ。
上座から湯呑みを配っていた雪村は、扇子を手に宙を見やっている総司に首をかしげた。

「あの……沖田さん、ぼんやりしてるとお茶零しちゃいますよ?」

「僕がそんなへまするように見える?」

「見えるから言っているのだろう」

「一君には聞いてないんだけどなぁ」

湯呑みを受け取ると総司はようやく絹扇を帯に差した。



あの夜、あの明るい髪色の男と斬り結んだときの刃の重みが、未だに手に残っている。……奴らに囚われてるのは俺も同じか。
綱道のこと、羅刹のこと、攘夷派のこと、伊東のこと……問題を挙げたらきりがねえってのに。
俺は置かれた湯呑みを手に取り強く握りしめた。



※時期的に平助が不在orz

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