※キャラ崩壊が大変激しいです。


佐助は夜半の大坂城に忍び込んだ。それを嗤って出迎えるのは大谷吉継である。

「廻れ巡れ不幸の螺旋。小指と小指でさぁ結ぼう。われとぬしと赤黒き糸を」

「熱烈な歓迎にあずかりまして、光栄だね」

「夜にわれを訪ねる者は久しくてなぁ……つい。……冗談だ。そう嫌そうな顔をするな」

数多の仕掛け、敵の忍が佐助を襲う。それらをかわし、あるいは破り。そうまでしでも佐助には探さねばならないものがあった。

「ぬしに敬意を表し、最後の試練をくれてやろう。おぉい三成、徳川の間者がここにあるぞ」

「……なんだと!? おのれ家康ゥゥウウ!!」

現れたのは豊臣秀吉の左腕、石田三成。

「家康ゥ! 影法師に襲わせるのが、絆とやらかァ! 影は苦手とうそぶいた、あの困惑はたばかりかァ!」

「そんな思い出にけちつける気はないけどさ。一人の男のことしか考えられなくなった大将……そんな未来があんたなのかな」

「ねーねー佐助君、それって秀三? 三秀?」

「いやむしろ家三……って香耶!!」

このシリアスな場面に佐助の背後からひょっこり現れたのは、佐助の探し人、香耶だった。

「香耶、あんた豊臣に捕まってたんじゃ、」

「? ふつうに遊びに来てただけだよ」

「やれ、気付かなんだか? 月君ならば戦が始まったときからましらの背後におったが」

「え、ずっと俺様の背後に!? あんたなにしてんの! 才能の無駄遣い!!」

「香耶、家三とはなんだ。何故か無性に腹立たしい」

「三成君は知らなくていいと思う」

香耶の顔を見たためか、三成が多少落ち着きを取り戻す。
ここで佐助はふと在る事に気付いた。

「っていうか、凶王の旦那と徳川の旦那になにがあったの? ずいぶんとご立腹みたいだけどさ」

確かにこの世界では軍を分け独立した家康の立場は少々特殊となっているが、未だ秀吉も半兵衛も健在である。
攻め入り攻め入られの緊張状態にあるかといえばそうでもなく、わりと平和にそれぞれの領国を維持していた。

「貴様……あの男の忍のくせに主の過ちを知らんなどと言うつもりか……!」

「あ、いや、そもそも俺様の主はあのひとじゃなくて、」

「貴様の釈明に耳を貸す暇などない。死に絶えろ!」

「もうヤダこのひと」

がっくりうなだれた佐助に刑部がにやりと笑いながら耳打ちする。

「ぬしのこと。あの狸が豊臣を抜けた折のひと悶着はすでに知っていよう」

「ひと悶着って、豊臣秀吉とあの徳川が喧嘩して仲違いしたっていう、あれ?」

と、佐助は口にするものの、この情報の信憑性を疑っていた。本当に喧嘩別れしたのならば、豊臣が徳川の独立を指をくわえて眺めているだけのはずがないのだから。そしてその疑問の答えは、意外な人物によってもたらされることになる。

「佐助君佐助君。家康君はね、マッチョ美女ハーレムを作るために三河に帰ったんだよ」

「……は?」

「あの男はあろうことか秀吉様の城で侍女どもを鍛え上げ、大坂城を自分好みの園にしようと画策していたのだ……!」

「へ、へぇ……そう」

正直その程度で? と思わないでもない佐助だったが、そんな考えを正確に読み取った刑部の次の一言は、佐助の顔色を変えるには充分なものだった。

「あの男のまことの目的は月君を好みに育て己がものにすることだったのよ」

「あ、そりゃダメだわ」

さすがの佐助も自分の主をそんな恐ろしい画策の餌食にされてはたまらない。

「家康君は、嗜好はともかく優しいひとだよ」

「誑かされるな! あの男の言うことなど全て欺瞞だ。絆絆とほざいておきながら裏では香耶に跨ることしか考えていないただの色狂いなのだからな!」

「いや、裏で考えていただけじゃなくかなり表に出してたけど」

「それ普通に変態だよね!?」

とにかく佐助は、自分の主である香耶が大変危険な環境にいたことだけは理解した。

「俺様的にかなり不本意だけど、香耶の危機を豊臣に救われたってことで感謝しなきゃなんないみたいだな」

「さよう。なに、礼ならぬしの主を頂ければそれでよい」

「じゃあ俺様の主をお礼に、って、結局あんたもか!」

「あ、ちなみに豊臣さんの理想は『女は肉付きがいいほうがいい』だよ」

「なに、おたくらそんなくだらない主張で軍を分けちゃったの!?」

「秀吉様の崇高な理想と香耶を穢した大罪人……! いずれ私が斬滅してやる、家康ゥゥウウ!!!」

いまだに佐助を家康の刺客と信じて疑わない三成は、ここで抜き打ちに佐助へと切りかかった。

「ちょ、俺様だってバッキバキより柔らかい女の子のほうが好きだっつーの!」

「本音が漏れておるぞ、不憫な猿よ。ヒヒッヒヒヒヒ」

「貴様、己の主を裏切るのかァ!!」

「ああもうこいつめんどくせえ!!!」

防戦一方の佐助にまったく危機感のない香耶から声がかかる。

「私もどっちかというと豊臣寄りかなー。こっちにいればみんな美味しいものくれるし」

「それあんたこっちでも貞操狙われてるって! もうこんなとこにいちゃいけません! 一緒に信濃(しなの)に帰るよ、ほら!!」

「えぇー」

「きっ、貴様ァ! 『一生シモをしゃぶらせる』だと!? その下卑た発言を即刻取り消せ!!」

「誰がそんなこと言ったァ!! 一緒に信濃帰るっつったの! 頭腐ってんのかよ!」

「香耶にしゃぶらせていいのは私だけだァァアアア!!!」

「あんた本音は相当ゲスいな!!! 徳川をどうこう言えねえよ!」

「徳川などと一緒にしてくれるな。われらは他の女などに食指は動かぬ。狙うは月君ただひとりよ」

「ある意味徳川にいるより危ないってそれ!」

やっぱり香耶を迎えに来て正解だった。ここは色情狂の巣窟だ。
頭を抱えた佐助は最後の手段に出ることにした。

「香耶、武田の大将が戦勝祝いの宴に呼んでたぜ」

「えっ、行っていいの? 佐助君、いつも飲みすぎるからだめって言うのに」

「うん。今回は特別ー」

「やったー」

とはいえ武田もまるっきり無害かというとそうでもないのだが、このまま豊臣にいるよりはマシであると佐助は判断した。

「じゃあ三成君、私そろそろうちに帰る。豊臣さんと竹中さんによろしく言っといて」

「香耶! 貴様も豊臣を裏切る気かァ!!」

「裏切るも何も香耶は豊臣軍の武将じゃないからね?」

「ふむ。ましらの言うことも一理ある。ここはしかたあるまいな」

こうして佐助は豊臣に入り浸っていた主を奪還することに成功する。
だが、この後大谷や竹中ら軍師たちの調略によって武田が豊臣につき、それが日ノ本を東西二分する大合戦の幕開けとなることなど、まだ誰も知らないのだった。

(2014/05/03)

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