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土方歳三side
早朝、護衛組の視線を背中に感じながら、茶店 幾松茶屋 を目指す。
今日の護衛組は山崎と斎藤だ。
今は近藤さん、新八、平助らが将軍上洛要請と隊士募集で屯所を不在にしている。
隊士不足の上いろいろと偶然も重なっちまったせいで俺まで駆り出される羽目になったんだ。
今回の作戦、香耶を使うことに総司が散々ごねたのは言うまでも無い。
本当は作戦に組み込まれてなかった香耶の奴が、なぜか勢い込んで作戦参加を志願したのだから、説得がならなかった。
香耶には 俺こと浪人石田歳三の恋人、お琴(どちらも偽名)を演じ くだんの茶店で働いてもらい、情報収集を行う。
また店にときどき現れるという、現在行方不明の勤皇家 宍戸溜三郎に接触を図る。
一方俺は、宍戸溜三郎の娘、つき に近づいて操り、宍戸溜三郎または奴の仲間や協力者を暴き出す。
頃合には状況によって俺の正体が新選組副長だとそれとなく噂を流し、自ら囮となることも視野に入れる。
この場合、俺の恋人設定である お琴(香耶)も囮になる。特に連中が、お琴を一般人だと思い込んでいれば、釣れやすくなるだろう。
「俺はともかく てめえの武器は懐刀一本だ。場が戦場になったら戦おうとするな。逃げろ。いいな」
「わかったわかった。ほんとにみんなうるさいんだから」
だろうな。幹部はみんな…特に総司と雪村。
あいつらは心配性だからな。(香耶side:自分のことを棚に上げてるよ!)
俺たちが幾松茶屋に着くと、香耶は外から声を張り上げた。
「おーい、おまっちゃーん!!」
「香耶はん、おいでやす。ああ、今はお琴はん言うんどしたなぁ」
おい。
「幾松茶屋のおかみと知り合いだったのか!?」
「そのとおり。あーまかないが楽しみだなぁ」
「てめぇな…」
こいつがなんであんな頑固に作戦に志願したのか、理由がやっとわかった。このひとが食いもんを恵んでくれる友達だったからだな。
今店から出てきたお松というこの壮年の女は、今回うちの作戦に協力してくれる幾松茶屋のおかみだ。
なんでも旦那が江戸出身だったとかで、うちに協力してくれることになった。
「おかみ、お琴のことを頼むぞ」
「よろしゅおす。あんさんもおきばりやす」
「歳三君、おきばりやすぅ」
「……ああ、わかってるよ」
笑顔で手を振る香耶に、俺はひくつくこめかみを押さえた。
くそっ、こいつ本気で心配だ。
だがここはおかみと護衛の斎藤に任せ、俺は俺で、宍戸槻(つき) の文の返事で指定した場所に向かうのだった。
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