結局、褒美を受けるか罰を受けるか、選べないまま一日を悶々と過ごした総司は、翌朝わざと起きれないふりをするまでもなく本気で寝坊したらしい。

馬鹿だ。

俺には香耶と総司の間で行われるやりとりを覗きに行くような趣味はない。
……気にならないといったら嘘になるが。

だから朝餉の時刻に、昨日とはうって変わって眉の重そうな顔で……しかもどんよりと暗い空気を漂わせながら現れた総司に、俺は少しだけ驚いた。
どうやら香耶による総司への罰は約束どおり科され、なおかつ隊士に甘い香耶にしては抜群の効果が発揮された様子。
一体どんな罰を受けたのか気になったが、隊士全員が集まる朝餉の席で、香耶も総司も触れようとしないのに俺から話を振るのも憚られたため、後で総司にこっそり聞いてみることにした。



そして登校後、朝のHRの前の僅かな合間。自席に突っ伏す総司に、俺は若干の期待を込めて声をかけた。

「総司。香耶の罰とはどのようなものだったんだ」

「…………」

訊ねれば、総司はのそのそと鞄からスマホを取り出し、昨日と同じ操作をしてイヤホンを俺に渡す。
無論俺はそれを迷わず耳につけた。

録音が再生されると、まず聞こえてきたのは勢いよくドアを開け放つ騒音だった。


『総司くん、これはどういうこと?』

『……え』

総司が起きた声がする。演技ではなく、本当の寝起きだ。
しかし騒動は止まらず、戸惑うような声に、ゴトンと物音がしたと思ったら次いで布ずれの音。

「これは?」

「……僕がベッドから落ちた音」

言いながら肘をさすっている。おおかた打ってアザでもできたのだろう。
イヤホンからは、寝起きの総司が混乱する声が聞こえてきていた。


『……嘘、え? な、何これ』

『何? この期に及んで申し開きがあると?』

『ち、違っ』

『君という男は……私という妻がありながら、どうして銀髪の知らない女と寝てるんだい?』

「ぶっ!」

不覚にも吹いてしまった。


『それとも何、君は銀髪の女なら誰でもよかったの?』

『ちちち違うよ香耶! 身に覚えなんて……、僕には君だけだ!』

総司が香耶を呼び捨てにしている。俺の記憶が確かなら、総司が彼女を呼び捨てにしていたのは、前世、ふたりが夫婦だった頃だけだ。

「……完全に寝ぼけてたんだよ。しかも香耶さん着物だったし」

「それは念が入っているな……。で、あんたは本当に銀髪の女を連れ込んでいたのか?」

「そんなわけないじゃない」

だろうな。


『でも現に既成事実の跡がある……まぎれもない不倫じゃないか』

『ふ、不倫!? って、待って香耶、なんで刀を抜いてるの!』

『その女を殺して私も死ぬから』

『な、何言って……! その女はどうでもいいけど香耶は死んじゃだめ!』

なんという修羅場だ。しかも香耶の口調が淡々としているところがまた空恐ろしい。

「……あんたたちは早朝からなにをやっているんだ」

「だから寝ぼけてたんだって。しかも僕の目には明治時代に住んでた家の風景が見えてたんだ。幻術でね」

幻術が施されていたということは香耶のほかに霧属性の協力者がいたということか。
おそらく総司の隣に寝ていたという不倫相手も幻覚で作られたものだったのだろう。
幹部格隊士で幻術が使える者は、六道、クローム、山崎君、そして総長……山南さんだ。このうち明治の家を再現できるのは山崎君か山南さん。香耶の協力者はこのふたりのうちのどちらかのはず。

『だったら縁切り寺で尼になる』

『駄目ー! 絶対行かせない!』

ここから話が離婚するしないというくだりに入る。離婚の届出が法制化されたのは明治十二年。それまでは夫から妻に離婚を言い渡す場合、三行半(みくだりはん)という離縁状を。それに対し妻からは見限り家出や寺駆け込みが離別の習慣となっていた。

遠く前世に思いをはせているうちに、教室に担任が入ってきて俺はようやく現実に引き戻された。
HRの時刻か……まだ朝だというのになぜか酷く神経が擦り減ったような気がする。道場で我武者羅に木刀でも振りたい気分だ。

「……これに懲りたらわざと寝坊するなど愚かな真似はやめることだな」

「……そうだね」

イヤホンを総司に返しながら言えば、奴は死んだ魚のような目をしてうなずいた。




おまけ☆皆を学校に送り出したあと

「ちょっと悪趣味が過ぎやしないか、敬助君。なんか総司君の目が死んでたよ」

「しかし彼は寝坊の演技までして香耶の声を録音していたのですよ。妥当な罰です」

「そうなのかな……」

「不倫相手が起きなかったのはせめてもの優しさです」

「そしたら総司君が女を殺しかねないな。幻覚とはいえ朝からそんなの私が見たくないわ」

「そうですか。まぁ、朝はあれでも昼には立ち直るでしょうけどね」

「ご褒美品として用意しておいた愛情弁当を持たせたからね……でもあんなんでホントにフォローできるのかな」

「できますとも。沖田君は知恵が働く割に単純ですから」

「あの子をそんな風に評価できる君が怖いわー」

おしまい。(2014/2/25)

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