三成君の受難
石田三成side



目が覚めて、まず視界に入ったのは、見慣れぬ天井とふすまから漏れ入る朝日だった。

……おかしい。
昨晩は、いつも小田原に滞在する際借りている月神屋敷の離れ座敷の空き部屋で、持ち込んだ穀物輸送の海路上に出没する海賊による被害と斬滅についての書物を処理していたはず。
布団には入った記憶などない。ましてや布団を敷いた覚えなど……。

これが大坂城ならば、なにかと寝食にうるさい刑部のしわざだろうと考えもつくが、月神屋敷で夜半に私の部屋に忍び込む者もないだろう。……若干名おもしろ半分にやらかしそうな者もいるが、そんな奴が懇切丁寧に私を布団に寝かせたりするものか。

「……っ、なんだこれは…っ!?」

布団から起きあがり、自然に衿のあわせを直そうと胸元に手をやると、柔らかな胸部の膨らみに触れてぎょっとした。
自分のものとは思えない、思いのほか高い声が口から漏れて、思わずのどを押さえる。

これは……女の身体か!?
うつむいた瞬間、視界が緩やかな曲線を描く白銀の髪で覆われたので、いよいよ私の思考は凍りついたように働かなくなった。



「香耶さまァァア!!!」

確認したところやはりあの身体は香耶様のもので、あの部屋は母屋にある香耶様の寝室だった。
彼女の部屋には、鉱物を玻璃(はり)で封じ込めたという美しい姿見があったためすぐにわかったのだ。

原因など想像も出来ないが、私の精神が香耶様の身体に入ってしまっているということは……この身体の本来の持ち主である香耶様はどうなっているのか、推して知るべし。
自分の身体ではないせいか闇の婆沙羅は発動しないが、恐惶を発動しているかのごとく瞬足で離れの借部屋へと戻る(?)と、部屋からはちょうど私の身支度を整えた私の姿が出てきたのだ。

「……香耶? そんな寝間着で一体……いや、まさか…………三成君かい?」
「は、半兵衛さ、ま……?」

な……なんということだ。私の身体には半兵衛様が……!
己の姿に三成君、と呼ばれることのなんと調子が狂うことか!

「……その姿で『半兵衛様』と呼ばれると違和感があるね。君付けか呼び捨てにしてくれたまえ」
「なっ……お、恐れ多く…とんでもごさいません!」
お気持ちは解りますが!
「しかし三成君が香耶の身体に、僕が三成君の身体にいるのなら、香耶はもしかして……」
私の顔で眉をひそめる半兵衛様の言葉に、私もはっとした。
そして私達は顔を見合わせた。

「まさか、……香耶様は……!!」
「…………、……三成君、」
しかし半兵衛様は私からそっと視線を離して、こう仰るのだ。

「まずは服を着てくれないか。目のやり場に困る」

お気持ちは痛いほど解るが……
……自分の容姿でそのように困り果てた表情をされると激しく複雑だ。



香耶様の恰好は、寝間着を脱ぐとすぐ素肌だった。そのため私にも半兵衛様にもこの身体を着替えさせることができなかった。
仕方なくいつも香耶様がお召しになっている作務衣とやらではなく、女物と一目でわかる小袖を単衣の上に重ねたのだが……。
もし厠に行くときはどうすればよいと言うのだ!
……くっ、不甲斐ない……! どうか懺悔の許可を! 香耶様!!

「香耶、まだ寝てるのかい?」

半兵衛様は、自室だというのに香耶様がおられる可能性を考え、開けるよ、と断ってふすまを静かに開いた。

すると中で布団にくるまるように寝ていた半兵衛様(の身体)が、身じろいだあとうっすらと瞳をあけたのだ。

「……私が私を起こしに来てる。へんてこりんなゆめ……」

舌っ足らずで寝ぼけた半兵衛様も珍しい……中身はやはり、香耶様のようだが。

| pagelist |

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -