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クリスマス、という行事がある。
「南蛮では耶蘇教の唯一神が生まれたとされる日に特別な祭儀を行うのですが、平成の日ノ本ではこれが一種の祭りの日となっていましてね」
「そうそう。で、その日には七面鳥っていう雉肉の特別な料理や南蛮のお菓子を食べて、家族や大切な人と贈り物を交換するわけよ。宗教関係なくみんなでね」
「へぇ。要するに灌仏会(かんぶつえ)の日にドンちゃん騒ぎをするみたいなものだよね」
「まぁ……」
灌仏会は……釈尊の降誕を祝って行われる法会のことだ。平成では花祭といったほうが身近かな。
なので間違ってはないのだけど……半兵衛君の例えにものすごい語弊を感じるのは気のせいだろうか。
……いや、気のせいじゃない。敬助君もこめかみを押さえてる。
「この重箱の中身は、その祭りに関係のあるものなのですか?」
「そうだよ」
平成の私が持ってきたその包みを開け、三段になった重箱の上のふたを開けると。
「なにこれ。人がた?」
「というと、玉藻前と戦った世で、安倍清明殿が使っていた……」
「武器じゃないからね!」
何を言い出すんだこいつらは。
中に詰まっていたのは、過去の私が作ったジンジャーブレッドマン。
生地にショウガやモラセスを使い、人の形に型抜きしたクッキーである。
二の重には粉糖で雪化粧したチョコカップケーキ。
三の重はこれらのお菓子をもって帰るための紙袋がたくさん、と。
一個一個包装なんてしないとこが私だよなぁ。もともと試食もかねて持ってったものだし。
「南蛮の菓子か」
「そのとおり」
私はクッキーを手に取り一口かじる。うん、大丈夫。
一応毒見して食べかけのそれを、小太郎君の口元に持っていけば、彼はなんの躊躇もなくクッキーを噛み砕いて私の指まで舐めた。
「ちょっとなにすんの」
「ククク……美味よな」
自分の手を小太郎君から取り戻すと、隣の幸村がすかさず手ぬぐいで拭ってくれる。
「凄いですね。すべて香耶殿の手作りですか」
「そう。クリスマスに人に贈るために作ったお菓子だよ」
「それは……私たちが食べてしまっていいのですか?」
「とっといても過去の私はもう来ないからね」
リボーンたちに釘も打ったし。
腐らせて捨てるより食べてしまったほうがいい。
「本格的な洋菓子など久しぶりですねぇ。さあ、お茶を淹れましたので皆に分けましょうか」
「さんせー」
「いっぱいあるから、じっちゃんと風魔君にも持ってってあげようよ」
過去の私には悪いけど、重箱のお菓子はこちらの家族で美味しくいただいておくよ。
だからボンゴレのみんなにはまた新しく作ったやつをあげてね。
(2013/11/16)
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