ぼぅん! と煙に包まれ目を瞑った。

手には重箱。薄手のダウンにスキニー、パンプス、くまのキャラクターのマフラー。
こんな装備で10年バズーカに当たった私がやってきたのは、畳敷きの純日本家屋だった。



「……あれ、幕末……?」

てっきり未来の自分と入れ替わるものだと思ったのだけど……。

「……香耶殿?」

「あ、はい」

見覚えのない美丈夫にいぶかしげに名を呼ばれ、落ち着いて周りを見回してみると、どうも数人の男と食事中だったようで。
その中にたったひとりだけ見知った顔を発見し、こわばっていた肩の力を抜いた。



「おや。その格好……もしや並盛に住んでいた頃の香耶ですか?」

「敬助、くん……」

和服姿の山南敬助。懐かしい。……いや、懐かしいという表現が正しいのかははなはだ疑問だが。
敬助君は私を“並盛に住んでいた頃の香耶”と言ったのだ。
つまりここが、私と彼にとって未来に当たる時間軸であることは間違いない。

土足だった私は、ささっとパンプスを脱いで背に隠した。



「どうやら過去の香耶と入れ替わってしまったようですね。ボヴィーノファミリーの秘宝、10年バズーカでしたか?」

「う、うん。さすが理解が早い」

「ねぇねぇ山南殿、それってつまり、この香耶は俺たちのこと知らないってことじゃない?」

「そんな……それで香耶殿は私に対してよそよそしかったのですか」

少年……いや結構歳くってそうな童顔の男が、にこにこと邪気のない笑顔でそういうと、最初に私の名を呼んだ美丈夫がショックを受けたような顔をする。そんなやりとりを、動揺もなく杯の酒を舐めていた赤髪の大男がくつくつと笑って眺めていた。みんな順応早いな。なんだこのカオス。

私は未来でもあいかわらず顔のいい男に囲まれてるようだ。平均年齢上めで静かだけど。



「まあ、深刻にならずともすぐに元に戻るでしょう。香耶、元の世界に戻るまで夕餉でも食べますか?」

「椀と箸はこの世の香耶が持ったまま消えた……クク、今ごろ過去ではさぞ間抜けな姿を晒していることだろうよ」

「そうなの? そりゃあ確かに間抜けだわ……」

この世界の私のものであろう膳に視線を落とすと、焼き魚に里芋に漬物に青菜の汁物と……ここにはない茶碗には精白した粳米があったのだろう。何時代か知らないけどなかなか贅沢な献立だ。

「箸がないなら仕方ないね。はい香耶。あーん」

「え、あ……あー」

似非少年に促されるまま口を開けると、ころんと放り込まれる里芋の煮っ転がし。

……うんまー。

頬を膨らませてほこほこと芋をほおばっていると、今度は前から差し出される杯。
深く考えずにそれを受取ると、赤髪の男がひさごを傾け酒をついだ。

……なんだここは天国か。

杯をついっと呷ると隣の美丈夫が何かに気付いたように顔を寄せてきた。



「過去の香耶殿はちゃんと身を飾っているのですね」

「本当だ。高価そうなゆびがねをつけてる。この時代の香耶はいつも作務衣で引きこもってるからね。俺たちが飾ってあげないと」

「そういえば、この頃の香耶はむしろいつも出歩いていて、家の者に心配ばかりかけていましたねぇ」

「それはそれで良し悪しですが……」

「確かに。帰ってこなくなったらと思うと、引きこもってるほうがマシなのかも」



ゆびがね? ……あ、指輪のことか。

これは単なる装飾品じゃなくて匣兵器を開けるための実用的なものなんだけど……たぶんここでそんな説明してもしょうがないよなぁ。敬助君もわかってて省いてるんだろう。

……っていうか未来の私は男を囲って身の回りの世話でもさせてるのかな。それもどうなんだ。
赤髪の男に酒を注がせてびっみょーな顔をしていると、そいつは心底面白いものを見たというふうに不気味に笑っていた。

せめてギブアンドテイクな関係であることを祈る……。

何杯目かの辛口なお酒を含んでいると、赤髪の男は私の手からすっと杯を取り上げて、まだ残っていた酒を飲み干した。
ん? と首をかしげると、次の瞬間には、私はもう並高の屋上に戻ってきていたのだ。

……私でさえわからない帰るタイミングを、あの男はわかったというのか……いったい何者!?



「香耶さん!」

「香耶ー!」

「戻ったか」

未来の私は元いた場所から一歩も動いてなかったらしい(私もだけど)。
コンクリートにぺたりと座っていた私を、骸君が手を引いて立たせてくれた。

「香耶、おめー靴はどうしたんだ?」

「あ、向こうは屋内だったから脱いで…………置いてきちゃった」

「はだしで帰るのは危険でしょう。特別に僕が抱いて帰ってあげますよ」

「駄目だ! 骸に抱かせて帰るほうが危ない!」

「僕がそんなこと許すと思ってるの?」

「はは、つーか香耶さんなら行きも帰りも夜の炎なのな」

正解だよ山本君。

「それで、香耶の用とは極限になんだったのだ?」

「それはね……あ!」



重箱!

足元をきょろきょろと探してみても持ってきた重箱は見つからず。もしかして……未来に置いてきちゃった?



「…………」

「…………」

「……ごめん。用事、無くなった」

「んだと!? 呼びつけておいてそれかよ!」

「……咬み殺す」

「ご、獄寺君、雲雀さん、落ち着いてー!」

「だからごめんってー」

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