過去の未来、未来の過去
※10年バズーカで入れ替わる「空模様、マフィアびより」の香耶さんと「なまケモノ」シリーズの香耶さん。



ぼぅん!

擬音にするならこんな感じで目のまえが真っ白になった。
煙幕のようなものに包まれ、それが晴れたのち、私はぱちぱちと瞬いて、周囲を見回した。

景色が急に変わったからだ。
景色だけではない。空気も、季節も、対峙していた人物も。

「香耶!」

「香耶、大丈夫か!?」

なんて声が聞こえて。

「っていうか、香耶さん、なんで着物!!?」

「……つ、なよしくん?」



あれ。
あれ、そんな馬鹿な。

今の今まで、私は、小田原で……戦国時代の、月神屋敷で、家族と夕餉をともにしていた……はず。



「へ、平成? 私……戻って?」

「わりーな香耶。こいつらが喧嘩して故障した10年バズーカをおめえに当てちまったみてーだ」

「あ……え、リボーン? すごい、久しぶりだな」

「俺にとっちゃ今の今までこの時代の香耶がここにいたんだがな」

……やっと状況がつかめてきた。
要するに。



「……過去に来たのか、私は」



見渡せば、リボーンのほかにも。
焦っていても私をものめずらしそうに見てるボンゴレ10代目(候補……の時代か?)、沢田綱吉君。
ばたばたと逃げるランボ君と、それを怒りの形相で捕まえようとしてる獄寺隼人君。
さわやかに笑ってる山本武君に、何が起こってるかたぶん理解してない笹川了平君。
さらに、驚きに固まって動かない珍しい表情の雲雀恭弥。
同じく目を見開いて、それからなんともいえない複雑な顔をする六道骸君。
ボンゴレファミリー集合中じゃん。どしたの珍しい。

「ここどこ。みんな何してるの?」

「オイ、てめーが呼んだんだろ! 忘れたとは言わせねえぞ!」

「極限に落ち着けタコヘッド!」

「俺ら全員、香耶さんに呼ばれて並高の屋上に集まったのな」

「え、私が?」

「未来の香耶に聞くのもあれだが、何の話だったかおぼえてねーか?」

「うーん」

リボーン君の質問に記憶の引き出しを探るが……思い出せない。

山本君いま並高って言ったよね。並盛高校……みんな高校生か。若いなぁ。
私にとっては十年どころか何十年も前の話になる。10年バズーカが故障したせいって言ってるけど、ちゃんと帰れるのかな、これ?



「確かにみんなを集めて話をした……ような記憶はあるんだけど」

「覚えてないってことはたいした話じゃなかったんじゃないの」

「恭弥の言うとおりかもねぇ……あ、もしかして結婚報告だったりして──」

カラァン! と三叉槍を取り落とす骸君。え、動揺?

「ここは笑うとこだよ。冗談のつもりで言ったんだから」

「やややめてください貴女が言うとシャレにならないんです!」

ただでさえ男の影が多いんですから、と青い顔で叫ぶ骸君の肩をぽんと叩いたのは恭弥だ。たぶんに嫌味がこもってる。
なんだか変な空気になったところで、うまく話題を入れ替えるのは、高校生になって守護者の扱いに多少貫禄の出てきた綱吉君だった。

「覚えてないんなら仕方ないよ。ところで香耶さんは未来では何してたんですか?」

「ごはん食べてた」

「それは見たらわかります……」

言われて自分の装備を見直せば、左手に茶碗、右手にお箸でナスの味噌漬けをつまんでる。さらに今日は登城した(させられた)ので半兵衛君がくれたよそ行きの道行と赤い伊賀袴、小太郎君が気まぐれで結った束髪に、幸村が買ってくれた桜の透かし彫りの黄楊の櫛を挿している。
……この平成の世に時代錯誤も甚だしいな。

「……古道具趣味に走って隠居でもしてるの?」

「恭弥、なかなかいいとこついてる」

そういうことにしとこう。説明が面倒だ。



「てかさ、ご飯食べてるときでよかったね。これ。もし私が着替えてたり、お風呂入ってたりしたらどーすんの?」

「そ、それは……」

言われて綱吉君たちは、ばつが悪そうに視線をそらす。
そういう危険性を考慮してないんだろうなぁ。みんなまだ子供だし。

「仮に誰かとセックスでもしてたら入れ替わった過去の私も悲惨な目にあうだろうしね」

「せっ!!?」

綱吉君たちは顔を真っ赤にしてまさかって顔するけど結構切実な問題だと思う。トラウマ決定だ。



「だから10年バズーカはほどほどにね」

「悪かったな、香耶。あいつらには俺がねっちょりお仕置きしといてやるぞ」

「え、ちょっと待って俺もかよ!?」

「リボーンさん、悪いのは全部アホ牛ですよ!」

「おれっちのせいじゃないもんね! リボーンが悪いんだもんね!」

「うるせー埋めるぞ!」

なんとまぁ騒がしいこと。



戦国時代に行ってしまった私は今頃どうしてるのかな。あの場には敬助君もいたし、そんなに酷いパニックにはならなかったと思うんだけど……。

子供たちの喧騒をBGMに考え事をしていると、何の前触れもなく、また景色が変わる。



「……あれ」

「ククク、戻ったか」

「香耶殿、ご無事でしたか」

戻ってきたのだ。戦国時代の小田原に。
私を覗き込む小太郎君や幸村君の顔を見て、懐かしい時代旅行は並高の屋上から一歩も動くことなく終わってしまったなぁと少し残念に思う。

「久しぶりの並盛はどうでしたか?」

「懐かしかったよ……でも、みんながいるこの時代に帰れてほっとしてる」

「そうですか」

私の言葉に敬助君は穏やかに微笑む。



「……というか、半兵衛君、なにしてんの」

「ふふ、過去の香耶にご飯を食べさせてあげてたんだよ。茶碗も箸も香耶がもってっちゃってたからね」

はい、あーん。なんて言われて条件反射で口を開けると、甘辛く煮付けた里芋が舌の上に転がってきた。
それをもごもごと咀嚼していたら、今度は小太郎君に杯を渡されて、ひさごで酒を注がれて……。なんだこのすっごい既視感。



「……あ。靴と重箱」



このときになって、私はようやく思い出したのだ。
過去の私が何の用でボンゴレファミリーを集めたのかを。

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