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月神香耶side
「風間はこのこと知ってるんだ?」
「初めて会ったときに少しやりあったからね」
「ふぅん…」
何かたくらんでいるような笑顔を浮かべる総司君。至近距離で私の顎を持ち上げた。
そのまま顔が近づいて───
ぺち。
私は空いてる手で総司君の口をふさいだ。
「なにするの」
「なにするの、は私のせりふ。『消毒』なんてベタな事やんないでよ」
「ちぇ」
総司君は目論見が外れて口を尖らせる。
「それから、その刀、刀鍛冶に持ってかないとね」
総司君の刀には、先程の私の血が黄金になって貼り付いてしまっている。
私は地面に転がっている黄金の粒を全部拾って、総司君に差し出した。
「あげる。お代の足しにして」
「いらないよ。これは香耶さんのもの。香耶さんが好きに使いなよ」
「……そっか。じゃあこの金で炊き出しでもしようかな」
「欲が無いなあ。簪でも買えばいいのに」
簪か……欲しくないとは言わないけど……。
「……………私、髪を結えないんだよね」
「なに? ごめん、よく聞こえなかった」
「だから、髪が結えないんだよ!」
「え、嘘!?」
紐や棒なんかで髪が結えるか!
ヘアゴム! 誰かヘアゴムをくれ!! バレッタをくれ!!
心の内で十年越しの悩みが吹き荒れた。
「やっぱりこの金で髪を切ってこようかな。ばっさりと」
きっとすっきりするだろう。
私は髪の長さにこ特にだわりがあるわけではない。現在長く伸ばしている理由は、たまに日本髪を結ったり、髢を作るため高く売れることがあるからだ。
垂らしたままの毛先をつまんで弄んでいると、その手を総司君の大きな手に包まれる。目線を上げると、至極真面目な顔をした総司君が私に顔を近づけた。
「それは駄目。絶対に駄目」
「なんで?」
「切ったら斬っちゃうから」
「きったらきるって……意味が分からないんだけど」
この台詞言うの2回目だよ。
「髪が結えないなら僕が結ってあげるから。だから切らないで、ね?」
「うっ…そのきらっきらの顔は卑怯だよ。だいたい、何をそんなに必死になってるの」
「せっかくの綺麗な髪なのに」
「気味悪くないの? この色。そんなこと言ってくれるのは君くらいだよ。……あ、でもそういえば千景君も髪に口付けしてったな」
「なにそれ聞いてない!」
総司君はもう一度私にぎゅっと抱きついて、私の髪をまとめて持ち上げた。
「ちょっと、総司君」
「じゃ、『消毒』ね」
「やっぱり……」
言って、有無を言わさず髪に口付けして私を腕の中に閉じ込めた。
結局その金は、総司君と簪を買いに行くのに使うことになるのだった。
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