鳥かごから飛び立つとき
※REBORN!白蘭夢
月神香耶side
私はそっと目を閉じた。
どれほど辺りを見回しても、視界にはいるのは同じ景色ばかり。
すえた空気をそっと吸い込んで、吐いた。
「香耶チャン」
名前を呼ばれて、私は視線だけを相手に向けた。
相手の顔は、コンクリートの影に遮られてよく見えない。
だけど私は知っていた。
「白蘭……」
このまっしろな鳥籠の持ち主を。
憎体に笑うその男は、白い背景にとけ込むような、白い肌、白い髪。なのに異質とも呼べる存在感を放っていて。
「全部終わったよ」
その台詞に私は体を揺らす。
「意味は分かるよね?」
そんな質問に、YESともNOとも答えず、私は瞼を伏せた。
黙祷だった。
それが気に食わなかったのか、白蘭は表情を歪める。
「新選組も、ボンゴレも。君を縛り付けるものは僕が滅ぼした」
白蘭と私は根本的なところが似ている。
似たような能力を持って、周りを支配しようと動く。
考えることに違いはなかった。
「僕が憎いかな?」
「……そうだね」
曖昧に答えるのは、つまりは、わからないということだ。
「私は人間の命が儚いことを知っている」
「なら、それを刈り取る僕は、尊さとは真逆のところにいるんだろうね」
「いいや。たとえ幾万の生命をその手に掛ける犯罪者だろうとも、人間ならば同じだよ」
「僕を人間というカテゴリーでひとくくりにするつもり?」
「人間は生まれてから死ぬまで人間でしかあり得ない。ひとが神に昇華すると考えることもまた、人間であることの証だ」
「へぇ…じゃあ香耶チャンは自分が神になれるなんて、考えたこともないんだね」
「君は私が人間以外の何に見えているのさ。私だって何も知らない無垢だった頃は、なんにでもなれるんじゃないかって思ったものだよ」
努力を重ねればいつか、目の前の理不尽を駆逐できる存在になることができる。
希望と絶望を繰り返し、そして私は今ここにいる。
「私は人間だよ」
そうして目の前の白いひとから目をそらす。
「僕の目には……」
君は、人間になりたがっているなにか……神なんじゃないかって、時々思うことがあるよ。
なんて、白蘭の独り言は、聞こえないふりをしていた。
逃げようと思えば、逃げることはできる。
それをしないのは。
「罪悪感を持つこと。それもまた人間であることの証明じゃないか」
私が人間であると、証明したいからなのかもしれない。
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