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月神香耶side



「天・覇・絶・槍! 真田源二郎幸村、ここに見参!」

やたら熱い。

二槍を携えやってきたBASARAの幸村君は、制止役のいない今日に限って闘争心に満ち溢れているようだ。
きらきらと輝くその視線は主に私に向いている。ただでさえ暑いのに熱気を向けないでくれよ……。



「香耶殿、某は感服つかまつった。忍び参った佐助を完膚なきまでに打ち負かした豪腕、そしてその命を救い甲斐の国にまで送り届ける深い慈悲!」

「豪腕て……褒められてるのにあんま嬉しくないな」

「第一あれはそんなスッキリした決闘みたいな感じじゃなかったと思うけどなぁ」

まぁね。半兵衛君の言うとおり、夜襲してきた佐助君がうちのみんなにフルボッコにされてるところを私が無理やりログアウトさせただけだし。

幸村君の言いたいことを要約すると、つまり私と手合わせしたいから相手しろってことらしい。



「某、滾っておりまする! うぉおおおおみ、な、ぎ、るぁぁああああ!!!」

あっつぅ!

幸村君の婆娑羅の炎にあぶられて若干逃げ腰の私を背に庇うように前に出たのは、無双幸村と伊達さんだった。

「香耶はまだ病み上がりです。無理はさせられません」

「Wait! あんたの相手はこの奥州筆頭、伊達政宗だ! Come on!!」

「なんと!」

おおぅ、血の気の多いのはあちらだけじゃなかったようだ。

ぎらぎらした表情で真っ先に刃を抜いて飛び出していったのはここしばらく不完全燃焼気味だった伊達さんで、彼の雷の婆娑羅と幸村君の炎の婆娑羅がぶつかり合い砂を巻き上げ、辺り一帯焼け付くような砂煙に見舞われた。
あああじっちゃんの氷の婆娑羅が恋しいよ……!

これにあわてたのは武田の家臣の方々や片倉さんである。
武田の家臣や兵士の方々が、やれお館様だ佐助殿だとてんやわんやでひとを呼びに行ってる間に、片倉さんは貫禄のある声を張り上げた。

「政宗様……! 御足元の野菜を踏み潰してはなりませぬぞ!」

「All right!」

って、伊達さんが留意すべき点はそこなのか。



そして出遅れた、っていうか出る気もなかった私たち月神一家はというと、蒼紅一騎打ちを武田屋敷の表口の式台に座ってまったりと傍観していた。

「あのふたり、いい勝負だね。小太郎君、あれにまざんなくていいの?」

「クク、相手は喧しいだけの仔犬一匹よ」

「幸村君を仔犬認定しちゃうんだ」

「なぜか私が複雑な気分です……」

微妙な表情の幸村を、気持ちは分かるよ、と軽く慰めるのは半兵衛君だ。

「婆娑羅の世の武将って面白いひとばっかりだよねー」

「それには同意するけど、無双の世の武将も大概だよ」

「そう?」

自覚ないのか。
だべっていると私の視界の隅……わざわざ観戦の邪魔にならない場所を選んで音もなく現れる婆娑羅小太郎。

「おー、お帰り小太郎。どうだった?」

「……(猿も上杉のくのいちも存命)」

「それは重畳」

佐助君が生きてるのは幸村君の口ぶりからもわかってたけどね。私は小太郎の声なき報告に肩をすくめる。

すると小太郎が何かに気付いたように意識を逸らした。
屋敷の中から近づいてくる大物の気配がある。

「……(香耶)」

「はいはい」

どうやら武田の主、甲斐の虎が出てきたらしい。もう謁見も何もないな。
式台で寛いでた私は腰を上げた。

外でいまだに白熱している伊達さんと幸村君をちらと確認して、私は玄関の間の奥を振り返る。



そのときだ。
屋敷の中から飛来してくる隕石みたいな婆娑羅が、私の顔の横を通り過ぎたのは。



私がそれを危険だと把握するかしないかの間に、月神のみんなが一斉に方々へ散る。

気付けば私も無双幸村と婆娑羅小太郎に引っ張られていて、同時に武田屋敷の玄関先が轟音とともにふっ飛んだ。

え……えぇぇええ!!!

私は幸村たちのおかげで難を逃れたが、もちろん玄関先で勝負に集中していた伊達さんと幸村君が無事なはずはない。もうもうと立ちこめる砂埃が暫時ののちにおさまると、玄関先だった場所は壊滅状態で、ふたりの姿はどこにもなかった。

も、もしや生き埋めに……?
はらはらしてる私の後方で、まさに獅子のような覇気をまとった男が瓦礫の上に立ち、吼えた。

「幸村!!! この程度も避けられぬとは何たる様よ!」

信玄公……それは無茶ってもん……

「ぅお館さまぁあああ!」

……でもなかったか。

二槍を掲げ瓦礫を蹴散らしながら立ち上がった幸村君は、かすり傷だけでぴんぴんしている。武田軍の打たれ強さを甘く見てたわ。

「その程度ではここに並み居る剛勇の将を倒し、香耶殿にたどり着くことなどいつまで経ってもできぬわ!!」

「いやちょっとまてオッサン」

いつから勝ち抜き形式バトルになった。



「あーあ。武田の総大将が自分の城をこんなにしちゃって。元の世界じゃ考えられないよねー」

「あの信玄公ならば頓着なさらないのでしょうね」

そらそうだ。じゃなきゃ城内庭園を耕作地にされて黙ってるはずがないし。

「成る程な。この軍の良識を担っていたのがあの忍だったということか。ご苦労なことだ」

おお、小太郎君にまで同情させるって、ある意味すごいな。佐助君。

そして信玄公と幸村君が恒例の叫びあいをおっぱじめるさなか。なぜか他軍の私たちが佐助君のありがたみを噛み締めつつ、いまだ生き埋めになってるであろう伊達主従を捜索することになるのだった。

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