28

月神香耶side



大刀“狂桜”で飛来する何かを弾くと、キンッと硬い音を立ててそれは地面に落ちた。

何かって、これはあれだ。苦無だ……よね。
紛うかたなく苦無だ。うん。



ああああいきなりなんだこの状況っ!



私は夜の森を疾走していた。
追ってくるのは闇色をした、おそらく何者かの婆娑羅。
夜空に浮かぶ月の形はぺらっぺらの薄い三日月。隠密日和でなによりですね!

小太郎……BASARAの風魔小太郎が護衛のため私の近くにいたはずだったが、彼もまた手練の忍と交戦中だ。ちらっとしか見なかったけど、相手は綺麗な金髪で胸のでっかいお姉さんだったと思う。
うらやましい。私もそっちがいいよう。目の保養目の保養。



私は、夜が明ければ甲斐に出立ーっていう今日に限って月神屋敷の母屋ではなく作業蔵で仮眠をとっていた。だからかこうして謎の忍の襲撃に遭い、あまつさえ誘導されて敷地の外に出されてしまったのである。

あーあ。母屋で寝てればきっと誰かが襲撃前に敵の気配に気付いたのだろうに。母屋にある私の部屋は無双武将の部屋に囲まれているので、人的に難攻不落と言えるのだ。



甲斐武田と月神が同盟を結ぶ。
それはつまり、武田信玄公が事実上月神の傘下となり列強同盟に名を連ねるということだ。武田の家臣にはこれを不満に思うものも当然いるだろう。
現に幸村君……BASARAの真田幸村は難色を示していたようだし。



ため息をつきながらも走る。

ただ闇雲に走ってるわけじゃない。
向こうは夜陰に潜むプロなのだろうが、小田原周辺の森は私のホームグラウンドだ。地の利はこちらにある……はず。

たまに飛んでくる飛び道具を叩き落とし、私を捉えようとする闇の婆娑羅を大きく跳んで避ける。じりじりとそれを繰り返せばうまい具合に相手は焦れてきたようだ。
背中の気配にくわえ、もうひとつ。前方に新しい気配が現れた。

掛かったな。

「ひん剥いてやるぁぁああ!!!」

「な……っ!?」

それまで抑えていた大空の死ぬ気の炎をここで大炎上させた。

と言っても小田原を火の海にするわけにはいかないので、調和の性質で婆娑羅を相殺するためだけの、熱のない炎にせざるを得なかったけど。たぶん町からは派手に火柱が上がったように見えただろう。

で、その炎で後ろから追ってくる奴を婆娑羅ごと足止め。私は前方の奴に全力で飛び掛った。

おそらくだが前方の奴は分身だとおもう。つーか分身でありますように。
祈りながら“狂桜”で分身(仮)を斬り付ける。そりゃあもう容赦なく、そいつの服と覆面を。三成君もびっくりの抜き打ちで、そいつが身にまとう布という布を、ボロっきれにしてやった。

「うわわわなんで服だけっ!?」

「ふん! またつまらぬものを斬ってしまったわ!!!」

なんてセリフは完全な悪ノリだが。敵の顔を確かめたかっただけなので。
とりあえず分身は消えた。よかった。こっちが本体だったら私も心的ダメージを食らうとこだった。本当につまらぬものは斬りたくない乙女心である。



「さて」

無構えで振り向いた先には、さっきまで私を追いかけていた忍がひとり。大空の死ぬ気の炎に囲まれて動けないでいる。

知り合いだった。

声を聞いたときから一応気付いてはいたけどさ。



「……明月になにか用かな、佐助君」

「香耶……」



あれ。分身は黒装束だったけど本体は迷彩服だったわ。なんだ。最初からこっちを照らしておけば済んだのか。

佐助君が私に向ける表情は、なんだか複雑な感情をはらんでいる。
いつもの笑顔も取り繕えず、かといって無情にもなりきれない。そんな顔。猿飛佐助らしくない顔だ。

「君の頼みだったらなんでも聞いてあげたいけどね」

肩をすくめながらそう言えば、佐助君もその薄い唇に苦笑を浮かべた。

「けど、限度はあるんだろ?」

「そりゃあ当然」

命をくれ、とか言われてもあげられないよ。

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