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月神香耶side



甲斐国に発つまでのおよそ二週間で斧、二槍、日本刀を仕上げた。私がんばった。

斧と二槍はもちろん信玄公と幸村君のものだ。これからこれらの武器と同盟話を引っさげて甲斐へと乗り込むのだが、そのまえに日本刀のほうを目的の人物に渡さねば。



「千景君」



私の小姓という名目で屋敷に居座る毛利家嫡男は、最近紀之介君といることが多い。性格的に相性がいいんだろうなぁ。
今日も今日とて豊臣勢が借りてるお部屋で、ふたりが兵法書と筆墨を手にああでもないこうでもないと小難しい話をしているところを、私はなんとなく身の置き場のない心地で割り込んだ。

「君にこれを」

「……なんの真似だ」

私が差し出した大刀を見て、千景君は怪訝な顔をする。
まぁ、頼んでもないのにこんなの渡されたらなんの真似だって言いたくなる気持ちも分かるけど……歓迎されてない雰囲気にくじけそうだ。



「千景君の持ってる刀は婆娑羅武器じゃなく普通の刀だろう。万が一ここに婆娑羅者の襲撃があれば君は死ぬ気の炎だけで応戦するしかない。相手の力量によっては無謀だ。だからこれを造った」

そう説明すれば千景君は目を見開いた。
彼の目の前で、私は鞘から刃を半分ほど引き抜く。

「この刀は覚悟を炎に変える媒体となってくれる。君専用の兵器だ」



私の覚悟に反応して、刀身が鈍く輝き陽炎のように揺らめいた。

良い刀だ。完璧、自画自賛だけど。

横で見ていた紀之介君も、ほう、と感嘆の声を漏らした。



「……名は」

「ないけど……」

柄に村雲と竜の彫り物(鞘師の遊び心だ)があるので乾雲坤竜丸(けんうんこんりゅうまる)とでも名づけるべき? なかなかに不吉だ。

「ほう。丹下左膳か」

「つっても名前ミックス刀だし。惹かれあうもなにもないな。なんなら脇差もつける?」

「では当麻友則で」

「えええ丹下つながりで薄桜記? 無茶言うなよ」

どっちも創作な上に時代背景おかしくないか。聞いてる紀之介君はちんぷんかんぷんだろう。

「冗談だ。この一振りでいい。この村雲は月が懸かっているからな。明月の作と名乗るに相応しかろう、大谷」

「ふむ。これならば明月の蒐集家のみならず武士なら誰しもが垂涎の名刀よ」

「では、名は乾雲坤竜明月(けんうんこんりゅうのめいげつ)と」

「そのまんまだな……」

まぁ、気に入ってくれたんなら造った甲斐もあったってもんだよ。
私は私の銘を切った刀が江戸時代になって血みどろの刃傷沙汰でも起こさないか激しく不安になってきたんですがね!

こめかみを押さえて悶々とする私に、千景君は「香耶、」と静かに声をかけてきた。



「…………礼を言う」

「どういたしまして」



家族の心配をするのは当然。
頬を染めそっぽを向いてしまった千景君に、私と紀之介君は顔を見合わせて笑った。

こうして甲斐へ出立する準備は着々と進んだのだった。



さて厳正な話し合いの結果、甲斐へは半兵衛君、幸村、W小太郎、そして伊達さんとともに行くことになった。
なんでここに伊達さんまで加わるのかというと甲斐と奥州でも同盟を組むとかなんとかで、片倉さんも甲斐に先行しているらしいからだ。

なんというかこう……ただでは終わらない予感がひしひしとするんですが。まいったね。



※「丹下左膳」林不忘 「薄桜記」五味康祐

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