22

月神香耶side



さて。

私の目の前には、この月神屋敷にいるはずのない人物が三人いる。
伊達政宗。大谷吉継。そして毛利千景。



「まず俺からでよいか」

ちら、と伊達さんと紀之介君を見て千景君がそう言えば、ふたりはうなずいた。
そして千景君は懐から一通の書状を取り出し私へと差し出す。

「元就公からだ」

「はぁ……」

なんか……開けたくないな。と思っても無視など出来ないので渋々それを受取った。
内容を確認すれば……毛利家の嫡男幸鶴丸を私の小姓として月神に預けるとある。なんでやねん!



「これは……千景君のわがままで?」

「いや、元就公の策略だろう」

なにそれ怖い。千景君のわがままで来たと言ってくれたほうがまだ良かったよ。

「ヒッヒ、おおかた予想はついた。次はわれよなぁ」

ほれ、と紀之介君からも渡される書状に、一瞬めまいを覚えたのは気のせいじゃないはず。
もう嫌な予感しかしない。

それを開けば予想した通り竹中さんからで。今度は大谷君の療養を任せるよろしく! だと。
思わず手紙を真っ二つに引き裂きそうになった。



「ばかじゃねーのお宅らの知将ども! 大事な跡継ぎや貴重な婆娑羅者の武将を押し付けて私にいったいどうしろと?」

「元就公にとっても、そうするだけの価値が香耶にはあるということだろう。俺のことは人質を預かったとでも思ってくれていい」

「マァ我も同じようなものよ」

「どこの世界に押しかけて人質になりにくる奴がいる!」

それを千景君と紀之介君はにやにやと笑って見てる。

「よもやこんな年端もいかぬ童やかよわき病人を追い出すなど、盟王月君はなさらぬであろうなぁ」

「無論、人質の身である我々には盟王の命に従わんという選択肢は無いわけだがな」

「ぐっ」

良心攻撃とは卑怯な……!
こいつらが乗り気な時点でもう決定してるも同然だった。



とりあえずこの行き場のない憤りは、おふたりの手紙を思いっきり畳に叩きつけることでなんとかおさめた。

「おや、荒れていますねぇ」

そこになんでもない顔をして敬助君が茶を持ってきた。茶、と言ってもお薄ではなく煎じ茶のほうだ。
彼は湯飲みをのせた茶托を私の前に置くと、床に広がっている書状に視線をやって、ああ、と声をあげる。

「なるほど。竹中君もやりますね」

「やりますねって……敬助君はほかになんかリアクションないの?」

「まぁ、私は先にここに帰ってきたときに竹中君にも風間にも会っていますので」

「つまらん。そして竹中さんどこ行った」

私の疑問に答えたのは三成君だ。

「半兵衛様なら秀吉様を追いかけすでに相模を御発ちになられました」

えええ。
瞠目する私に三成君はすこし口ごもりながら続ける。



「半兵衛様から香耶様に言づてが」

「……ほう。言ってみ」

「…………『行ってきます』と」

「ヒヒヒッ! 三成にこれを頼むとは賢人殿もお人が悪い」

それを聞いて、私は自分の目元を手で覆った。
あー……もう。

「次は本人の口から言わせてやろ」

口元が笑みで歪むのを抑えることはできなかった。



「そっちは終わったか? 次はうちだな」

「あぁ、そだね」

最後に伊達さん。
私はお茶をすすって息をついた。

「伊達さんのとこも列強と同盟でいいんだよね?」

「ああ」

じゃあ毛利や長曾我部と一緒に加盟のお披露目すればよかったんじゃないの?
……いや、やっぱだめか。あの宴、戦勝祝いも兼ねてたからな。

「奥州とも同盟を組んだらもう残り僅かだね」

「重虎、あとはどこが残ってる?」

「あとはー、甲斐、越後、あと九州も入れられたら磐石でしょ」

「Really! 香耶の天下まであと少しじゃねえか」

「やめて私の天下とか!!」

一般人だって言ってるだろ!

「香耶、九州を攻め落とすならば、我ら毛利にそう命じるがいい」

「さよう。豊臣も力を貸すゆえな」

「いやいや落とさせないから!」

第一、九州攻略を毛利と豊臣に任せたら草も生えない焦土と化しそうだ。
そこに身を乗り出して声をあげる伊達さん。

「Ho,there! うちを忘れてもらっちゃ困るぜ」

そして心底興味はないのだが、と前置きして彼に視線を向けるのは三成君だ。

「……貴様は誰だ」

「ハァ? 俺か!? てめぇ……戦に出てただろ!」

俺が奥州筆頭、伊達政宗だ! と不敵に名乗りを上げる伊達さんを、しかし三成君は本気で初耳だったふうに目をすがめる。

「三成君……たまに天然だよね」

「凶王三成をそのように評価する女子がいるとはなぁ。愉快よ、愉快」

こりゃどいつもクセが強すぎて収拾が付かんわ。



※ここに至るまで一度も「伊達」と発音していない三成。

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