16

月神香耶side



というわけで日は飛んで五日後。

残務があるので先に小田原へと帰った敬助君、半兵衛君、豊臣勢たちを追っかけて、ようやっと私も帰ってくることができた。



「あああなんだかいろんなことがありすぎて久しぶりに感じる小田原城……!」

「私も同じ思いですよ、香耶」

「ただいまーってかんじだよねえ、幸村」

とはいえ、前田と同盟を結ぶべく小田原を出発して、実はまだ三週間も経ってないのだが。

たしか、躑躅ヶ崎館行って、伊達軍と喧嘩して、生理になって、黒脛巾と喧嘩して、伴太郎をうちのこにして、慶次とも喧嘩して、加賀で同盟して、そのあと安芸に飛んで、元就の船に乗せてもらって、千景君と再会して、元親と喧嘩して、小田原の港で小太郎をうちのこにして、んで岩付城で伊達軍と喧嘩したんだっけ。
あれ……やばいなにこのオーバーワーク。平成で新選組のボスやってた頃より働いてる。ぶっ倒れるのあたりまえだわ。



私と幸村、伴太郎、あと忍んでついてくる婆娑羅小太郎で、城主の人柄のせいか長閑で賑わった城下町を歩く。

すると栄光門の下でなにやら山のようにでっかいひとが目に入った。



「……!!!!」

「ああ、香耶殿! 待っていたぞ!」

「家康君、本多さん」

三河のおふたりだった。
本多さん……栄光門の前に立ってるとなんだかオブジェみたい。
あと、家康君は成長するたびになんだか幕末にいた新選組局長に似てくる気がするなぁ……特に声。

「来てくれたんだ。ありがとう」

「ワシだけではない。同盟国の国主や要人がみな集まってる」

「へぇ? 織田さんや豊臣さんや前田さんも?」

笑顔でうなずく家康君に、私は内心げんなりする。
つまり今この城には北条をはじめ織田豊臣徳川前田毛利長曾我部と同盟国主がずらり勢ぞろいというわけだ。
私の脳裏にこれまで出会った曲者達が浮かんでは消えていく。
……じっちゃん大丈夫かな。

「利家殿は香耶殿が置いていった荷を預かっていると言っていたが」

「……あぁ」

わすれてた。

「それから……今川殿の姿がどこにも見えんのだが」

「今川さんなら京の都で悠々自適に暮らしてるよ」

「は」

家康君がぱかりと口を開けて驚いた顔をした。

今川さん、最初は領を取り戻してお家を再興するみたいなこと言ってたんだけど、周りの国(特に北条)を見てどうも自分が政に向かないことを自覚したみたい。で、今は上洛して和歌を詠んで蹴鞠を嗜み書を教えながら夢のようなお公家かぶれの余生を生き生きとおくってる。うらやましい。
政に向かないっつっても自分のこととなると要領がいいんだよな。腐っても元国主だったわけだ。




立ち話をしていると広大な小田原城の二の丸から、何かが砂埃と闇の婆娑羅を巻き上げながらものすごいスピードで走ってくる。

「家康ゥ、貴様ァァァアアアア!!!」

えええ、恐惶っすか三成君。ちなみに刀は抜いてない。
そしてもちろん彼ならどこぞの赤いのと違って止まれないなどということはなく、ズザァ! と地面をスリップしながら私たちの目の前で止まった。

「くっ……私が狸ごときに遅れをとるとは……! 香耶様、宴の席へは私が案内いたします」

「待ってくれ、三成! ワシは香耶殿と会うのが久しぶりだからな、ここは譲ってくれないか」

「家康ゥゥウウ!!! 私の邪魔をするなァ! これは秀吉様じきじきに下された命なのだぞ!」

「ならばワシがいたから必要なかったと言っておいてくれ! 同盟国主はみな平等だから、秀吉公もなにも言わんだろう」

「貴様が秀吉様と同等などあるものかァァ!!!」

子供の喧嘩か。



「まぁ、仲の良い友達が出来ることはいいことだよね」

「これを仲が良いと言い切りますか……」

え、幸村はそう思わない?

| pagelist |

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -