07
片倉小十郎side
月神香耶。
政宗様を魔性で惑わせたのが彼女なら、目を覚まさせたのも彼女だった。
所領など要らない、と言った言葉は本気なのだろう。
だからこうして政宗様も俺も健在で、兵の被害もそこまでじゃない。
あの妖がふたりもいれば、おそらくどこの国でもたやすく奪うことができたはずだ。
「小十郎。俺は急ぎすぎたか?」
自国へと馬を駆る政宗様の御顔は、まっすぐ前を向いたまま。
だがその表情は、負けた後だというのにどことなく晴れやかでいらっしゃる。
「甲斐の国で出会ったあの娘が危険な存在だと感じたのは政宗様だけではございません」
「ああ。だが」
政宗様は奥州を護ることをお忘れになったわけではなかった。
月神香耶を手に入れる。それは奥州のためでもあった。
「あの青くて広い、整然とした田畑を見ただろ」
「はい」
「北条は、あんな田舎まで豊かだ」
「……はい」
「あれが盟王月君の恩恵か」
俺たちが、踏み荒らしちまった。戦には広い土地も建材も実りも必要だった。だから仕方がねえ、なんて言えねえ。
奥州の北端は貧しい土地も多い。
「……月神に下るぞ」
「はい」
民のため。あの妖の娘に頭を下げる。
それが、政宗様の選び取った道。
「この小十郎、どこまでも政宗様にお供いたしましょう」
「ああ。You just wait! このままじゃ終わらねえ! 奥州も、香耶のこともな!」
そうだ。
俺たちは、まだここから。
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