04

(BASARA)竹中半兵衛side



味方の後陣が乱れた。
伊達の策に翻弄された我々の落ち度だ。
僕ともあろうものが。勘が鈍ったかな。不甲斐無い。



「半兵衛様、ご無事ですか」

「問題ない」

病み上がりのためか少し疲労しているが、病中戦場に身を置いていた頃よりははるかに動ける。
鍛錬しだいで勘も体力も取り戻すだろう。



「伝令によれば山南君が独眼竜の腹心と相討ちになったと聞いたが、撤退はしないようだ。おそらく互いの命に別状はないのだろう」

「敵の忍が暗躍したと……」

「黒脛巾だね。政宗君は月神軍に強い執着がある。だから持てるもの全て使ってでもここを動かない」

「邪魔なものはすべて私が斬滅してまいります。許可を」

「月神のために伊達を皆殺しにしたら香耶に嫌われてしまうよ、三成君」

無表情の三成君は本気で言ってる。それに冗談ぽく返せば彼は口をつぐんだ。



きっと香耶は三成君を嫌わないまでも、乱世を儚んで野に下ってしまう可能性はある。
みすみす彼女を手放すきっかけを作るなど愚かな真似はできない。

この戦を終わらせるには、伊達軍の総大将である政宗君に負けを認めさせるしかない。
そのために重虎君は伊達軍にあつかいを送るよう水を向けている。今は機を待つ段階だ。



「そろそろ日が落ちる。夜警の用意を」

「は」

北条兵に指示を出す三成君の背を見ながら、僕は考える。



月神に執着してるのは僕や三成君も同じだ。
豊臣軍師のこの僕が、月神屋敷で治療に専念して、彼女の家族とともに生活し、同じ家族の一員として彼女に愛された。
だがもとをただせば僕も彼女を危険と判断し、暗殺するために小田原の地を踏んだ。

今の政宗君の姿は、きっとかつての僕と同じ。
だが彼女の内に入るためには、気概を見せるだけでは駄目なのだ。

お人よしで気まぐれな月輪を動かすものは。



「――興味」



彼女に殺意しか持たなかった僕が、助けられた理由を今でも覚えてる。

重虎君と……無双の竹中半兵衛と、僕の名が同じだから。

ただそれだけの理由で香耶は暗殺者に手を伸ばしたという。呆れるしかない。



「政宗君。君は香耶の興味を勝ち取れるかい?」

呆れもしたが……今ではこの奇跡に感謝しているんだ。

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