03

(無双)真田幸村side



戦の前、槍をたずさえ戦場の土を踏みしめれば、長らく平穏に暮らしていたこの身はたちまち熱く高揚した。
山南殿がそんな私を、根っからの武人なのですね、と評して常と変わらず穏やかに微笑んだ。

「みんなの働きに期待してるよ。万が一突破されたり篭城戦になったりしたら山南殿の陣が俺たちの命綱。慎重にね」

「機は逃しませんよ。これでも月神軍きっての古株です」

「ふふ、それもそうだね。それじゃあみんな、はりきっていこー!」

こうして武蔵の地に法螺貝の音が響き渡ったのである。




実際に前線で伊達政宗に再会することはできなかった。

婆娑羅者の竹中殿と三成殿、そして私の部隊が敵前線部隊を包囲しながら押し返すと、勢いづいた北条兵から次々と独眼竜が現れたと報を受ける。
こちらの将の多くは敵大将の顔を知らない。これが囮の策であると気付くと同時に重虎殿から私へ挟撃の采配が飛んだ。

山南殿の率いる野伏の陣と私が預かった別働部隊が、伊達政宗、片倉小十郎らを包囲したのはそれからすぐのことだった。
寄せ手は婆娑羅者ふたりが食い止めている。無謀な敵大将隊は孤立した。

片倉小十郎が私の顔を見て目を見開き、伊達政宗に後退をと進言するが、彼の主は少し待てとこの地に留まった。
伊達政宗と正面から対峙した山南殿は、君があの奥州王ですか、と目を細める。

「こんな味方の後ろで待ち伏せたぁadmirableだな。そろそろあの女が出てくるかと思ったんだが」

「お褒めに預かり光栄です。お引き取りください、政宗公」

「Huh. 当たりを引いたな。南蛮語を理解してるなら香耶に近しい人物だ」

「……目的は北条を落とすことではないのですか」

「違うな。俺の目的は月神だ」

月神が目的だと言い切る伊達政宗は、なるほど、無謀なだけの男ではないようだ。

「残念ながら香耶はいません」

「あそこに信繁がいるのに香耶が帰ってねえはずがねえ。それともthe cock of the walkはあの城に隠れて震えてんのか」

伊達政宗の言葉に山南殿が表情を歪めた。

「年若い奥州王には言葉が足りなかったようですね。彼女はこの戦自体参加していないのですよ。今頃は毛利・長曾我部と同盟締結を行っている頃でしょう。伊達など眼中にありません」

「Ha! 言ってくれる。同盟国主には体で接待でもしてくれんのか? 所詮は女大将だ」

女性が大将であれば侮られ邪推が付きまとうことはわかっている。伊達政宗の言葉は安い挑発だ。
しかし山南殿からは殺気と剣気がぞわりと立ち昇った。

「……戦国の世で女性蔑視を嘆いても詮無いことですが……。香耶への侮辱は私への侮辱と受け取ります」

「家臣がこうして戦ってるのに高みの見物すらしねえ大将を、あんたらが守る価値はねえ。ここを通しな。あの女には俺が直々に戦ってもんを教えてやる」

伊達政宗が測る香耶殿の価値。
山南殿の殺気が増した。



「香耶は……誰よりも命を危険に冒している」



そうだ。
彼女が毒を含むとき。敵の忍の前に立つとき。その手を血と怨嗟に染めるとき。自分のためだからと無邪気に笑う、そのときすらも。

私たちは守られていた。身体も、心さえも矢面に晒す彼女の小さな背に。
我々は、守られ生きてきた。

だから、安い挑発とわかっていても、彼女を卑しめ侮る言葉に我慢が出来ない。



「やる気が出たか? Ok! Be enthusiastic!」

「……見せてあげましょう。君が敵に回したものが、何かを」

山南殿が大刀を抜くと同時に、彼の髪が白に染まり、その眼が血の色に染まった。
口元に浮かぶ笑みはいつもの柔和なものではない。狂気の嗤笑だ。

その殺気と重圧に息が止まりそうになる。
あれは、禍々しい……よくないものだとこの場に居合わせた者、敵味方全員が感じとり、警戒した。

そして彼の足元から濃い闇色の炎が立ち昇る。


「なんだ……!?」

「政宗様! お下がりください、あれはっ」

羅刹の姿が掻き消える。
刃を打つ音が高く鳴って。
とっさに伊達政宗の前に出た片倉小十郎の身体が吹っ飛ぶまで、何が起こったのか誰にもわからなかったのだ。

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