02

月神香耶side



忍を守る。

そんなことを言う大将は後にも先にも月神さんちの香耶ちゃんだけだったとさ、と。



何しろここは群雄割拠の弱肉強食戦国乱世。平たく言えば恐怖政治の世の中だ。
そしてこの時代、忍は人間扱いなどされないのが普通だった。それは忍が元来、野武士や野盗などから召し出されたものであったからかもしれない。
技を売り、草に潜み、命を刈る。それが穢れたものの仕業と認識しなければ、ひとは忍を使うことができなかったのだろうか。

そしてその身上はたとえ北条家領周辺諸国を震撼させた風魔党の長とて同じこと。



なんだか笑いの止まらなくなったらしい無双小太郎君の顔を、私は眉をひそめて覗き込んだ。

「ククククク」

「小太郎君、大丈夫か──んぐ!?」

すると首の後ろをがっと捕まれて、引き寄せられて、わけのわからないまま唇にがぶりと食いつかれた。

すぐに薬でも盛られるのかと警戒した。こいつには前科がある。
かたくなに口を閉ざすと、小太郎君はちゅっと音を立てて唇を離し、可愛げが無いと毒づいてくれる。誰のせいだ誰の。

そばで唖然としていた婆娑羅小太郎がここではっと我に返り、案外たやすく私を小太郎君から引き離した。



「うぬの口を吸いたくなった」

「…………は?」



口を吸うって……生々しい表現だな。

日本での口づけ、キスは平安、室町時代ごろからすでにあったらしい。
無論、挨拶としてのキスではない。性行為としてのキスで、だれかれかまわずするものじゃなかった。



「行かず後家で一通り経験しているというわりには疎い。我は香耶に性愛の情をいだいている」

「な、」

なんですと!!?



二の句が継げない私に小太郎君は近づいて、その大きなてのひらを私の厚みのない胸の中央に当てる。

「クク、我はうぬのここにあるものを狙っているぞ。せいぜい逃げ惑え」

どくりと臓腑が軋みをあげた。



彼が狙うものとははたして私の心臓か、それとも真情だとでも言うのか。

色よい返事など返せるはずもない私は、小太郎の腕に守られながら、熱の上がった頬を茜に染まり始めた大地を睨んでごまかすしかなかった。

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