01
雲の隙間から、細く降り注ぐ月光に照らされて。
月だけが、私の新しい旅の出発を見守っていた。



私はこれまでに幾つもの『時渡り』を経験してきた。
それは『時間移動』だったり『次元移動』だったりした。

少数民族を虐殺する戦地に飛ばされたこともあった。
『魔法』が日常的に飛び交う世界で友達ができたこともあった。
海の男達にまじって荒波の中を航海もした。
胡散臭い盗人の仕事に巻き込まれて警察に追われる羽目になったこともあった。

すべては私の意志ではなく、すべては私の意志だった。
次元を巡るのは私の意志ではなく、しかし確かに私の意志だったのだ。



私は安寧と終焉の地を求めている。ずっと。



『香耶さん』

と、私に付きまとう悪魔が私を呼んだ。

視線だけを動かすが姿はない。宵闇と静寂が支配する町並みだけ。
だが悪魔はたしかにそこにいる。

愚かにも、私への恋慕の情だけで自分の住む世界を捨ててきた悪魔が。
想いに答えてやることはできないが、彼は確かに私の支えとなっていた。

そして彼は、それでいいと。



ああ、もう行かなければならないのか。
次こそは安住の地となればいいけど。

「出てこい、ゼロ」

悪魔の名を呼んだ。差し出した手を握り締めた姿で、悪魔は姿を現した。宵闇に溶けるように。
漆黒の瞳、漆黒の髪、端正な容姿、闇色の法衣、悪魔にふさわしい麗人。
これがゼロだ。

『新しい世界に行くのですね』

「うん……」

そう答えれば、ゼロは私にすがりつくように握った手に力をこめた。



「…行こう」

私がそういうと、ゼロは喜色をまとって頷いた。

『どこまでもお供しますよ』

と。

そうして私たちは闇に消えた。

| pagelist |

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -